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イヌ、ネコの乳腺腫瘍の怖さを知ろう!

  イヌの乳腺腫瘍はイヌ全体の腫瘍の中で最も多い腫瘍である。0(ゼロ)歳時で初回発情(初回発情は6ヶ月齢以上になると起こる。一般に大型犬は小型犬より遅い。)が来る前に避妊手術を受けた場合、生涯で乳腺腫瘍に罹患する確率は1万頭に5頭である(0.05%)。発情を2回経験するとその確率は4頭に1頭(25%)と急激に上がる。生涯避妊手術を受けなかった場合は2頭に1頭(50%)である。

  イヌの乳腺腫瘍の悪性率は約50%である。そしてその転移率も50%である。

  未避妊雌イヌの半分が乳腺腫瘍に罹患し、そのうちの半数が悪性、さらに悪性の場合の半数が主に肺に転移する(写真1)。これを獣医師の間では、50(フィフティー)-50(フィフティー)-50(フィフティー)ルールと呼んでいる。

 イヌの細胞診の悪性正診率は90%以上と高いが、良性正診率は60~75%と低い。良性正診率が低いということは、真は悪性の乳腺腫瘍を良性と誤診することで、手術をする必要が無いと判断することに他ならない。従って、通常イヌの乳腺腫瘍は早期にかつ広範に外科的摘出を実施し、その後に組織検査を行う。

  イヌの悪性乳腺腫瘍の中でも、悪性中の悪性のものが未分化型の癌で、炎症性乳癌と言われるものである。悪性乳腺腫瘍の8%を占める(良性乳腺腫瘍を含めた乳腺腫瘍全体では4%となる)。この腫瘍は乳腺の腫瘤が急激に大きくなり、かつ硬結と皮膚の炎症を伴う。片側(両側の場合もある)の5つの乳頭(乳腺)全体が帯状に硬結し、熱感も明らかである。ひどいものは表皮に小さな多数の水泡や出血プラーク(Plaque=斑点)を伴う(写真2)。

  イヌ、ネコの乳腺は通常イヌでは左右で5対、ネコでは4対ある。ここで重要なことは左右の乳腺は正中で隔絶されているが、片側の5つもしくは4つの乳腺は血管とリンパ管で繋がっていることである。この解剖的特徴は手術の術式と深く関係する。イヌの炎症性乳癌や後述のネコの乳癌は皮膚への浸潤で正中を越えて反対側に拡大する。

  1例目は日前に2~3週間前に乳腺のしこり(腫瘤)に気づき急に大きくなったとのことで来院した、15歳の未避妊雑種犬の症例である。一見して炎症性乳癌が疑われたため、バイオプシー・ガンにて組織を採取して、急ぎの組織検査を依頼した。炎症性乳癌の組織診断が得られて、その僅か10日後に重度の発咳(はつがい)で来院した。レントゲン撮影と超音波検査で乳癌の転移と考えられる胸水の貯留(写真3、転移性癌性胸膜炎)が認められた。乳腺はさらに腫れ上がり、乳頭からは血様浸出液が見られた。恐ろしい限りだ。

  イヌの炎症性乳癌は、発見時既に転移している場合が多いこと、術創が治癒しないことから、その手術は重度の潰瘍や出血がある症例など特別な場合を除き、禁忌とされている。

  
  一方、ネコの乳腺腫瘍は、血液、中でもリンパ系の癌、皮膚の腫瘍に次いで3番目に多い腫瘍である。雌ネコに限定すると全腫瘍の約17%という報告がある。ネコの乳腺腫瘍の悪性度はヒトに似て極めて高く、80%以上である。

  ネコの場合、悪性の割合と悪性度が極めて高いため、初回の手術で附属のリンパ節(鼠径リンパ節、腋窩リンパ節)の廓清を含む広範囲の乳腺摘出が必要となる。診断的な細胞診はイヌと違って悪性を良性と誤診する可能性は低い。ネコでは、乳腺のしこりを発見した時点で、既にリンパ節(附属リンパ節や前胸骨リンパ節)や肺などに転移している場合も少なくない。このため、術前には胸部レントゲン撮影を必ず実施する。

  2例目は2週間前からの嘔吐、食欲低下と廃絶を主訴として来院した15歳の未避妊雌ネコで、来院時既に胸水が貯留(写真5)しており、胸腔の穿刺で採取した液体は中性脂肪を多量に含有する乳ビ(写真4)であった。これを遠心分離して細胞診を行うと、乳ビ胸水の中に乳癌細胞(写真6)が見られた。胸壁には3cm程の乳腺腫瘤が認められた。このことは乳癌の胸腔内の転移により、胸管を含むリンパ管の破綻を意味している。この例に見られるように、ネコの乳癌の悪性度は恐ろしい程に極めて高い。

  化学療法(制癌剤など)は効果を示す報告もあるが、副作用で寿命を短縮することも有り得る。転移を防ぐ為、あるいは炎症を抑制するための目的での使用はある程度積極的であっても良い。

  総括すると、イヌ、ネコの乳腺腫瘍もヒトと同様に早期発見、早期外科的摘出を行うことに尽きる。乳腺にしこりを発見したら、ヒトと同様に対処していただきたい。勿論、手術を実施する場合にはレントゲン撮影、超音波検査、血液検査、細胞診などの諸検査で術前評価を慎重に行う。インフォームド・コンセント(Informed consent=治療に先立っての獣医師からの十分でかつ納得のいく説明。)で予後を含め全てを納得して、治療に当たらなければならない。

  イヌ、ネコでは繁殖させる希望がなければ、初回発情の前に避妊手術を行うことを勧めます。ペットを飼う前から避妊について家族で相談しておきましょう。

  

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