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ペット豆知識No.10-猫の怖いウイルス病-

 猫の大敵は?犬?コンコン降る雪?庭先の水入りペットボトル?いえいえ。
猫の大敵、それは猫そのものです。

-Cat Freakに忍び寄る影-
 病院に来られる猫の飼い主さんは犬の飼い主さんに比べ、猫種に対する愛情の高さを僕は感じます。つまり、猫好きな人はとことん猫が好きでCat Freakとでもいいましょうか、そんなイメージさえ抱かせられるほどに猫好きな飼い主さんもなかにはいます。犬好きな人を『動物好きな人』と表現するならば、猫好きな人はどこまでも『猫好きなひと』と表現できるのかもしれません。余談ですが当院の神宮分院の分院長、藤吉獣医師も自他共に認める一流のCat Freakです。僕自身、彼女の診療を見ているとそれを肌で感じることがあります。Cat Freakはしばしば多頭飼育へと発展する傾向があります。つまり、近所の野良猫を容易に受け入れ、結果家の中に何匹もの猫が住んでいるというような状況を作り出すことはもはや珍しいことではありません。猫には何かそういった強力に惹きつける魅力か魔力があるのでしょうね。しかし、それは時にいくつかの問題を起こすことがあります。
伝染病です。

-エイズも白血病も、人だけの病気じゃない-
 ご存知の方も多いと思いますが、猫には多くの、そして非常に重篤な伝染病があり、そしてそれは非情にも広く蔓延しています。例えば猫エイズ(FIV)は実に野良猫の25~30%が感染していると言われ、しかも人のHIV同様生涯完治することはありません。野良猫の4頭に1頭はエイズに感染している計算になりますね。驚きです。飼育猫も入れた全頭数でのそれは2~5%であり、これは飼育猫で自由に散歩する猫のFIV感染のリスクを高めることを示唆します。つまり、家で飼ってさえいれば、外界にうろつく3割のエイズ保有猫との接触はなく、結果感染リスクは減少します。実験的には交尾やお互いのグルーミングなどの長期にわたる接触でも感染は確認されますが、実際にはほとんど無効だと考えられます。米国でのある実験では、感染猫1匹と非感染猫20匹を混ぜたケージで2年間共同生活させたところ、非感染猫のうち1匹だけしか感染しなかったというデータがあります。これだけ猫エイズが多くても、何故か簡単には感染しないのですね。
 実際の感染ルートとして最も重要なのはケンカによる咬傷です(99.9%以上)。自由に外を歩き回る猫は行動範囲を限られた猫(家で飼育されている)に比べて20~30倍、雄猫は雌猫に比べてケンカをしやすいため、さらに2~3倍感染が多いと言われます。猫エイズウイルス(レトロウイルス科レンチウイルス)は粘膜への侵入ができないため、ケンカによる傷からウイルスが侵入し、増殖します。FIVは免疫不全状態を惹き起こし、様々な感染症に対して無防御となり、以前特集したヘモバルトネラ感染もFIV感染を示唆する指標ともなります。慢性の口内炎や歯肉炎も指標となります。
 それとは対照的に、猫白血病(FeLV)はウイルス(レトロウイルス属オンコルナウイルス)が唾液中に多量に含まれ、経口的にしかも比較的簡単に感染が成立すると考えられています。つまり、お互いのグルーミングや、食器の共有によっても伝播する怖い病気です。猫白血病は発症してから80~90%は汎白血球減少や貧血等の骨髄機能低下、肝不全、腎不全など全身性の疾患で3年以内に死亡します。さらに猫白血病ウイルスはリンパ肉腫や骨髄性白血病のリスクを高めることでも知られ、また免疫不全を引き起こし慢性口内炎などの症状が良く見られます。 

-外に出るならワクチンを-
 これらのFIV、FeLVはレトロウイルスという種類のウイルスで、数あるウイルス種の中でもめずらしいタイプで、何が珍しいかと言えば、腫瘍誘発性ウイルスである以外に変異を繰り返すため、なかなかワクチンを作ることができません。この状況下、幸いにもHIV(エイズ)のワクチンも昨今開発され、実用化の目途が立っています。FeLVのワクチンは実用化されて既に20年近くが経過しようとしています。来年あたりにはFIVワクチンの「恩恵」が受けられるようになりそうですが、先にも述べたとおり、変異が激しいため様々なサブタイプがあり、実際には70%程度の予防率と言われています。副作用なども含め、まだまだ楽観視はできないようですが、Cat Freakの方々や我々獣医師には注目するに値するニュースですね。外猫にはこれらのワクチンがスタンダードとなっていくのかもしれませんね。

-甘く見るな、猫のかぜ-
 FIV、FeLVを中心に話を進めてきましたが、まだまだ多くの伝染病が存在します。猫伝染性鼻気管炎、カリシウイルス感染症は『猫インフルエンザ』や『猫カゼ』とも呼ばれます。多頭飼育環境下では100%近くの感染率を誇り、子猫では致死的です。実際これのために来院する患者さんも少なくありません。くしゃみや鼻水、目ヤニ、よだれなどを主症状とし、文字通りの『猫カゼ』です。インターフェロンの投与が効果を発揮します。殊に猫伝染性鼻気管炎はヘルペスウイルスで、子猫のうちに徹底して治しておかないと潜在化し、体が弱る度に増殖し「カゼ」が繰り返し発症します。
 他にも猫伝染性腹膜炎(FIP:発症すれば100%の致死率。腹水がたまったり、腎炎、脳炎、肉芽種を形成する)や猫汎白血球減少症(FPLV:パルボウイルス感染により、白血球系細胞の著明な減少し、激しい嘔吐や血便を起こす。子猫に多く見られ、先天的な感染では、小脳形成不全などの異常仔が見られる)など怖い病気が目白押しです。FIVも入れれば、FIP以外の伝染病はワクチンが効果を発揮します。人のワクチンでも周知のことですが、ワクチンは100%の予防を約束するものではありません。しかし、実際には70~80%の有効率であれば、動物たちにとっては「大恩恵」です。猫好きのCat Freakな皆さん、年に一回のワクチン接種、わが子のためにも、そしてそのほかのニャンコのためにも、心がけてみてはいかがでしょうか。

-最後に-
 最後に、外を自由に徘徊する猫は本当に伝染病にかかりやすくなります。外に出れば「未明の猫集会」など自由(Freedom)を手にすることができますが、同時に感染症のリスクを高めます。交通事故にもあいません。外には危険がいっぱいです。屋外に出さないことが、最高のワクチンとなるでしょう。

文:小川篤志

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