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ペット豆知識No.14-眼に入れても痛くない豆知識・眼は緊急疾患です-

 映画『カサブランカ』で有名なハンフリーボガートはウインク一つで女優を落とす名士と言われたそうです。あの渋い声で、パチっとウインクした後「君の瞳に乾杯…」なんて言われたらどんな女性もコロっといってしまうのでしょうか?それはさておき、イヌ、ネコは、女性を落とすためでも見得を切るときでも、絶対ウインクはしません。え?ウインクをするんですか?それは眼疾患かもしれません。

 まず、簡単に眼の構造を説明します。国家試験勉強時に書いた図を下に載せておきますので、くわしくはそちらを参照してください。眼球は、3層の膜で構成されます。
外層は、角膜(黒目の部分)、強膜(白目の部分)。中間層は、ブドウの皮のような構造なのでブドウ膜(虹彩、毛様体、脈絡膜をあわせてブドウ膜という)内層は網膜で構成されます。
 眼球内は、レンズの役目をする水晶体、そして眼球の主体である硝子体が存在します。眼圧を維持する眼房水は常に毛様体から分泌され、前眼房のシュレム管から吸収されており、分泌と排出のバランスで眼圧の調整を行います。虹彩は、カメラの絞りの部分に相当し、光量を調整します。水晶体はレンズの部分に相当し、毛様体の収縮や弛緩(散瞳と縮瞳)によってピントを調整します。そうして入ってきた映像は網膜でキャッチされ、視神経乳頭から視神経へと連絡し、脳へ伝達されて結像されます。

 目のトラブルで一番多いのが、角膜疾患です。角膜は0.5mm~0.8mmの透明な組織で、外側から上皮、実質、デスメ膜、内皮で構成され、病変が内部まで浸透するほど、角膜疾患のグレードが上がります。
 角膜損傷は異物(木片や睫毛など)が目に入ったり、ケンカや自分の爪が目に入ることで傷がつき、重度で慢性化するとは潰瘍へと進展します。来院するほとんどが角膜疾患(眼科疾患の25%以上)といっても過言ではありません。偶発的に傷がつくため、通常、片側だけに病変が見られます。傷ついた方の目は不快感があり、涙がでたり、目をつぶったり、眩しそうにするため、そう、ウインクをするのです。特にギョロ目の犬種(シーズー、パグ、ペキニーズ、チワワ、フレンチブルなど)では、飛び出している分(眼球突出)傷が入りやすく注意が必要です。
 目の治療は、傷が出来てからのスピード勝負です。早い段階で処置をしないと、傷はどんどん奥まで侵攻し、ひどいときには内側の実質が外に飛び出してしまいます(角膜穿孔)。そうなると手術が必要となることも少なくなく、もはや視力の回復は望めないこともあります。
 異物やなんらかの刺激で起きる疾患としてよく起きるのが結膜炎です。角膜損傷や角膜潰瘍に付随することもありますが、細菌、ウイルス、薬物、異物、外傷、アレルギー、花粉などで炎症が起きます。猫の結膜炎では、その20%にクラミジア感染が見られ、ほかの20%にヘルペスやカリシウイルス感染が見られます。子猫で発生しやすく、結膜の充血と浮腫がおもな症状です。これも早期の治療が予後に響きますので、迅速な対応が必要となります。診断はフルオレセインという蛍光色素を角膜に垂らした後に洗眼し、色素が角膜上に付着して残ることによって確定されます。これは角膜上皮が剥れ、角膜の実質が剥き出しになっていることを意味しています。
 治療法ですが、当院で「眼の123」といえば
①抗コラゲナーゼ剤点眼薬(コラーゲン分解酵素が局所的に放出され、これが治癒を遅らせるため)
②抗生物質点眼薬(一次的なまたは二次的な細菌感染の阻止)
③:抗生物質眼軟膏(抗菌に加え、目の保護)
で通っており、早期の処置であればこの「123」でほとんどの角膜潰瘍が完治します。一日3回以上の点眼をして、眼を掻かせないためにエリザベスカラーをつけることも大事です。(特に、透明でない硬めのカラーを付けるとワザあり!理由は内緒♪)

 先ほど、異物(木片や睫毛)と書きましたが、睫毛(まつげ)も異物となることがあります。乱生睫毛、重生睫毛、異所生睫毛といって、本来睫毛が生える場所とは違う、例えば角膜に反応を起こす場所に睫毛が生えることが犬では多々あります。逆さまつげもその一つです。こういった睫毛は慢性的に眼に刺激を与え、上記の角膜損傷や角膜潰瘍、結膜炎、それに色素性角膜炎(慢性刺激によって角膜にメラニン色素が沈着する)などがおき、これらは「123」をしても、原因の除去(つまり余計な睫毛を抜くこと)をしなければ、いつまでたっても良くなりません。意外と見落としがちな疾患の一つです。
 他にも、涙液の障害で起きる乾性角結膜炎(KCS:Kerato Conjunctivitis Slicca)や猫の好酸球性角膜炎、角膜ジストロフィー、慢性表在性角結膜炎(パンヌス:pannus)など、角膜には多くの疾患があります。
 KCSは、特にギョロ眼の犬種で多いです。眼が大きく飛び出しているために、ドライアイになりやすく、兎目といって、睡眠中も目が閉じきらないような犬によく起ります。眼の表面は光沢がなく濁ったような色をして、黄色い目脂(めやに)が眼球を覆います。涙液量の低下に起因することが多いため、涙液量測定(シルマー涙液試験)で正常に涙液産生が行われているか確認します。これも多い病気ですね。
 ところで、プードルやシーズー、チワワ、マルチーズ、ダックスなど、おたくのペットは涙やけしていませんか?「なんか右側だけ涙が出てて茶色くなってるのよね~」なんて言葉をよく耳にします。もちろん逆さまつげなどの原因もありますが、それが否定された場合は、鼻涙管閉塞かもしれません。目から鼻に抜けるはずの涙の排出路が何らかの原因で詰まってしまい、いつも涙があふれているように見えるのです。風呂の栓をしたままお湯を張り続けているようなものです。(泣いたときは鼻水が出ますよね。ぐすんぐすんって。あの鼻水の一部は涙なんですよ。)これにもフルオレセインが活躍します。一滴たらして、10分経っても鼻から緑の蛍光液が抜けてこない場合はほぼ間違いなく鼻涙管閉塞でしょう。鼻涙管を洗浄すると開通することもあります。

 さて、眼の病気で有名なのは白内障、緑内障です。白内障は眼が白くなって、緑内障は眼が緑色になるとおもっていませんか?
 白内障(Cataract)は、「水晶体がなんらかの原因で混濁した状態」と定義されます。簡単に言えば白くにごった状態ですね。白内障の原因は様々ですが、主に加齢性、および遺伝性です。レンズとして働く水晶体がにごるため、当然のことながら視力に傷害を及ぼします。根本的な治療薬は残念ながらありませんが、老齢性の白内障の場合、進行を遅らせるピレノキシン(蛋白変性をおさえ、白内障の進行を遅らせる)が点眼されます。視力を回復させる手術もあるにはありますが、非常に細かい手術のため眼科専門医が必要になります。
 緑内障(Glaucoma)は残念ながらみどり色になるわけではありません。どうして緑という字がついたのかは分かりませんが、緑内障は眼圧(IOP)の上昇に起因する永続的な眼障害を呈します。眼圧とは、眼房水の産生過剰や、眼房水を吸収するシュレム管(隅角)の閉塞などによって上昇し、白内障とは違い、非常に痛がります。眼圧は通常10~25mmHgの間で維持され、犬では25mmHg以上、猫では31mmHg以上で緑内障と診断されます。犬の場合、40~60mmHg以上の眼圧が1週間以上、早ければ2日程度で永久に失明すると言われています。眼圧測定は人間のように一瞬で簡単に検査できるものではなく、トノペンという測定器を使って調べます。
 症状は、初期には結膜の充血や眩しそうにするといった、他の目の疾患と同じ症状ですが、持続する眼圧上昇とともに激しい疼痛、赤目、瞳孔散大、角膜混濁、さらには牛眼と表現される、眼が飛び出しそうなほどギンギンになって両目が外側を向くような症状を示すようになります。発症から48時間以内の処置が視覚回復の見込みがあり、利尿薬や、房水産生抑制剤、房水排泄促進剤、縮瞳薬などで眼圧を急激に下げる必要があるいわゆる救急疾患です。

 もうひとつ重要なぶどう膜炎(Uveitis)は、ぶどう膜(虹彩、毛様体、脈絡膜)の炎症をいいます。角膜と違い、ぶどう膜には血管が密に存在するが故に炎症がおきやすい場所といえます。イヌ、ネコでは、前部ぶどう膜、つまり虹彩や毛様体に炎症がおきやすく、それは後部ぶどう膜(脈絡膜)にまで波及していくため、眼底鏡の検査も必要に応じて行います。その原因は多岐にわたり、感染(犬伝染性肝炎、レプトスピラ、トキソプラズマ、フィラリア、猫白血病、猫エイズ、猫伝染性腹膜炎、子宮蓄膿症など)、外傷(穿孔や鈍性外傷)、代謝性(糖尿病、高脂血症など)、免疫介在性(全身性エリテマトーデス:SLEなど)、腫瘍など挙げればキリが無いほど多くの原因があります。しかも、臨床では原因不明なことが多く、従って治療法に関しても一概には言いづらい部分がありますが、基礎疾患の治療に加えて、その原因に応じてステロイドの内服及び点眼薬、抗生物質点眼薬、免疫抑制薬などを処方します。

 網膜や視神経の病気も見逃せません。進行性網膜萎縮(PRA)は初期に夜盲といって、暗い場所での視力が低下し、徐々に網膜が萎縮していき、最終的な失明を免れない怖い病気です。これも最近ミニチュア・ダックス散見される病気のひとつですね。

 ざっと眼の病気を紹介して参りましたが、はっきりいってまだまだたくさんの病気があります。しかも、これらは併発することが多く、例えば、角膜潰瘍と結膜炎とブドウ膜炎が同時に起き、そのまま色素性角膜炎に進行したところ、原因は逆さまつげであったなんてことも珍しくありません。
 目の病気は気づいてあげられやすい疾患です。ウインクをしている、涙がでている、充血している、かぴかぴに乾いている、目やにが多い、かゆがる、白くにごってきている、眼球が飛び出んばかりにギンギンしているなどなど。われわれは動物の目を見て接します。一番よく目にする、その麗しい目。うっとりしている場合ではなく、異常があればすぐに病院に連れて行きましょう。失明してしまう前に早めの処置をお願いします。

 次回は猫の慢性腎不全です。お楽しみに。

文:小川篤志

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