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ペット豆知識No.15-猫に多い慢性腎不全。人やマウスと異なり、猫の腎不全は食事療法がその進展(悪化)を抑制します-

猫の慢性腎不全

さて、突然ですが猫に多い病気、なにがあるかご存知ですか?まずは慢性腎不全ですね。それから心筋症(HCM:肥大型心筋症)、悪性腫瘍、感染症も多いです。猫エイズ猫白血病など前にも特集しました。あと猫下部尿路疾患(結石や膀胱炎など)、病気ではないですが交通事故ケンカ傷もよく見かけます。このなかでも、やはり慢性腎不全が猫の主要な死因であることはもはや常識となりつつあります。
今回は、猫に多い慢性腎不全についてお話しようと思います。

-なぜ猫に多いのか-
まず、慢性腎不全の原因について話しておきましょう。
 一般的なのは、家族性腎症といって、遺伝性です。猫では、アビシニアンやペルシャ種では他猫種の2倍以上の確率で腎不全が起きます。犬では、シーズーやゴールデンリトリバーの先天性腎低形成などです。後天性の原因には糸球体腎炎が多いとされ、これは免疫複合体が糸球体に沈着して腎不全を起こすと考えられていますが不明の点が多々あります。他にも、全身性エリテマトーデス(SLE)FIP(猫伝染性腹膜炎)腎毒性物質(エチレングリコールなどの不凍液、ヒ素、銀、鉛などの重金属、一部の抗生物質などの薬剤)など、さまざまな要因で腎不全が発症します。犬に比べて慢性腎不全が圧倒的に猫で多いにも関わらず、“なぜか”という疑問に対して一向に決定的な理由付けができないでいるのは、こうした腎不全の進展要因が多数あるため、決定打にかけるのが現状です。院長コラムには「慢性腎不全が猫に多いのはなぜか」に関しての仮説が提唱されているので、是非一読ください。

-腎臓のお仕事-
腎臓は背中側にある左右一対のソラマメ型の臓器です。むかし、お金に困って腎臓を売ったとかなんとかいうニュースがありましたね。一個で大丈夫なのかと心配になりますが、腎臓は非常にタフな臓器なので片方をとったくらいではびくともしません。まずはそんな肝腎かなめの腎臓が担う3つの機能について説明します。

(1)血液をろ過して尿を作る(尿生成)
(2)血液のなかから必要な物質と必要でない老廃物を分別し、それぞれ再吸収したり排泄(尿として)することで、からだのバランスを整えている(物質の吸収)
(3)血圧の調節や、造血を指令する(体循環)

 このうち1と2は、ほぼ同じことを言っています。血液を、腎臓の糸球体という『ろ過装置』で血球やタンパク質などの必要な成分を漉し取り、あとの残りは尿細管に流れます。
血球成分や大きなタンパクを取り除いた血液は、尿の元となり、これを原尿と呼びます。腎臓ひとつに20万以上の糸球体があり、それぞれに尿細管が付属しています。この長い尿細管を通るあいだ原尿は、じつにその99%が再吸収を受け、体内へと戻ります。では、残りの1%はどうなるのでしょう?尿になるのです。たとえば一日1Lの尿をする人では、その日つくられた原尿はなんと100Lにもなり、そのうち99Lは吸収されているということです。では、再吸収されるものと、されないものの違いは何でしょうか。
 再吸収される物質のほとんどは水分です。そのほか、Na、K、Cl、Caなどの電解質、小さいたんぱく質、ブドウ糖、アミノ酸などが多いです。また尿細管では不要な物質の排泄(分泌)をする機能があり、それは、余分な水分、カリウム、リン、尿素、クレアチニンなどがあります。
 また、腎臓は非常に血流の豊富な臓器です。それゆえ、その血流量の多さを生かして血圧の調節(レニンの分泌)も同時に行います。さらに、赤血球が足りないと感知すれば造血指令ホルモン(エリスロポエチン)を放出するという、循環器としての一面ももっているマルチな臓器なのです。

-腎不全になると…-
 ですから、腎不全の状態になれば、これらの機能がうまく回らなくなります。さっきの1~3に当てはめれば・・・

(1)原尿を濃縮(再吸収)できず、色がうすくて、臭いもきつくない水のようなおしっこがたくさん出ます(多飲多尿)。尿比重の低下が見られます(1.035以下)。
(2)ろ紙(糸球体)のフィルターがボロボロになり、大きなたんぱく質などがろ過されず、そのまま尿にでてきてしまいます(たんぱく尿)。しかも、尿細管は再吸収できずにジャージャー排泄してしまうため、脱水の進行とともに電解質やカルシウムなどのイオンバランスが崩れ、全身的な影響が現れます。排出しなくてはいけない尿素やクレアチニンが排出できずに体内をまわり(高窒素血症)、やがて尿毒症となります。
(3)腎不全となることで、レニン(血圧を上昇させるホルモン)の放出がさかんになり、高血圧に。また、高血圧は腎臓へ直接ダメージを与え、さらに高濃度のタンパク尿が見られます。そしてエリスロポエチンの放出もなくなって来てしまい、腎性貧血が発症するに至ります。

(1)の症状は、多飲多尿と呼ばれる症状で慢性腎不全では必ず見られる症状です。尿がたくさん出るので水を飲む。たくさんビールを飲んで尿がたくさん出るのとは意味がちがいます。あくまで尿が先行するのです。
(2)のイオンバランスの不均衡は、全身へのダメージを与えます。脱水に伴って電解質の異常も散見され、その中でもカルシウムの欠乏はさらなる病気を招きます。カルシウム(Ca)とリン(P)は切っても切れない間柄で、Pが上がればCaが下がるというような仕組みになっています。
 腎臓ではビタミンDを活性型ビタミンDとする機能もあり、それが障害された結果、消化管からのCa吸収が障害され、血中Ca濃度は下がっていきます。Pはほとんどが腎臓から排泄されるため、腎不全時にはリン排出が疎かになり高P血症となります(Pを制限する必要性)。高P血症のため、Caはその濃度を下げるため細胞内へ移動し、細胞内で障害を惹き起こします。腎臓の細胞も例外ではありません。、ナトリウム(塩分)の多過は血圧を上げやすくするため、制限しなくてはいけません。
 高窒素血症の原因である尿素クレアチニンなど(窒素化合物)は食物中や筋肉のタンパク質から分解されて作られますが、通常これは尿と一緒に排泄されるはずです。腎不全のように排泄できなくなってしまった場合は、これらが体に蓄積して尿毒症を引き起こし、多様な症状が発現します。慢性の嘔吐と下痢、神経症状=けいれん(これらを尿毒症の3主徴という)、食欲廃絶、異常呼吸、脱水と貧血、乏尿や無尿、口腔潰瘍、舌の壊死、口臭、沈うつ、嗜眠などの症状が起こり、もはや末期の腎不全となります。
(3)の高血圧とタンパク尿については腎不全の憎悪因子であり、貧血は体にとても負担をかけ、腎臓の細胞に対しても酸素や栄養補給の観点からダメージを与えることになります。

 これらは、いっせいに症状がおきるわけではなくて、徐々に(慢性的に)進行する疾患です。それぞれには全4期にわたるステージがあり、各ステージを登っていくことはもはやとめることはできないのです。

第Ⅰ期(予備能力の減少:正常の50%以下)・・・臨床兆候はなし。腎臓が徐々に障害を受ける
第Ⅱ期(代償性腎不全期:正常の50~30%)・・・多飲多尿の症状。腎機能検査の軽度異常
第Ⅲ期(非代償性腎不全期:30~5%)・・・腎不全期。CreおよびBUNの上昇
第Ⅳ期(尿毒症期:正常の5%以下)・・・尿毒症が併発。多彩な臨床症状。末期腎不全。

これについては、下の表にくわしく載せてありますので、参考にしてください。

-治療法-
 腎不全は、対症療法のように、ひとつひとつの症状に対して地道にたたいていくというスタイルで治療していきます。が、人間のように透析をすることは理論的にはもちろん可能ですが、保険の利かない獣医療では金銭的なデメリットが大きいこと、非常に煩雑な作業に加え、動物がじっとしていてくれないという前提があるために、動物医療で実際に行われることは殆どありません。ではどうして治していくのか。早期からの食餌療法と、補液療法は生存期間を大幅に伸ばすことができる為、この2本を柱にして治療計画を立てます。
今までの話を総括して、治療法についてまとめてみましょう。

①腎不全の食餌
 腎臓に負荷のかかる物質を排除したごはんが腎臓食です。つまり、適たんぱく質、低ナトリウム(減塩)、低リン食の3大条件がそろう食餌を与えます。ここで人(マウス)と猫(犬も同じ)の腎不全の大きな相違点について述べます。人の腎臓が一旦慢性化するといくら食事療法を行ったとしても、時間の経過に伴い、直線的で右肩下がりの機能低下(糸球体硬化が進む)が起こります。これは透析の導入時期をほぼ正確に推測可能なくらいです。猫ではこの人で見られる右肩下がりの現象が食餌療法で抑制可能です。しかもかなりの期間直線的に機能が維持されることが多々見られます。勿論、好き放題の食生活をしていれば、腎機能の低下のスピードは速まります(このことを腎不全の進展あるいは憎悪という)。また、猫では人程にタンパク質を制限した低タンパク食では、中等度に制限した食餌よりも腎不全を進展させることが実験的に証明されています。勿論高タンパク食は論外です。このことから猫では中等度タンパク制限食のことを「適タンパク食」と呼んでいます。タンパクは腎臓の血流量を増大させることから制限が必要です。塩分も体液量が増えることで同様に糸球体に負担を掛けます。Pは前述したようにCaの細胞内流入で腎臓の細胞障害を進展させるということです。ただし、腎不全の動物は食欲低下していることが多く、うまく食べてくれるかどうかがカギです。どうしても食べない場合は強制的に給餌する必要性も生まれます。

②脱水の補正
 脱水を防ぐため、最近よく水を飲むからといって水を制限しない。腎不全の進展をはやめることになります。さらに水も飲まなくなってきたら、皮下点滴を自宅療法として選択するのも一つです。

③尿毒素を体にためこまない
 活性炭は、消臭剤や水なんかの不純物質を吸着するのによく使われますね。実は医学的にもよく用いられるポピュラーなものなのです。ここでは、尿毒素を吸着するために活性炭を内服します。尿毒素物質はBUN(血中尿素窒素)やCre(クレアチニン)、Pなどをはじめ、約3000種もの物質があるとされています。活性炭を飲ませることで、消化管中の尿毒素を吸着して、便と一緒に排泄してしまうのが目的です。

④高血圧と貧血を防ぐ
 血管拡張剤として使用されるのがACE(=アンジオテンシン変換酵素)阻害薬です。猫の実験的な慢性腎不全モデルではACE阻害薬が糸球体の血圧(=糸球体濾過圧)と糸球体の肥大を抑制することが証明されています。自然発症の慢性腎不全猫でもその効果が示唆されています。これによって血圧(=糸球体濾過圧)が降下し、腎臓にやさしい血行動態となります。貧血に対しては、ヒトエリスロポエチン製剤や輸血、またサプリメントなどがあります。

⑤最後の手段
 腹膜透析があります。これは手術で開腹し、ドレイン(管)を取り付けてから一日何回も透析液をおなかの中にいれて透析を行います。しかし、末期の腎不全の状態で手術をするリスクを容認し、かつ非常に大変な作業を一日何回も行う了承を得られない限り、滅多に腹膜透析をすることはありません。あくまで最後の手段です。

 さっき、腎臓がタフな臓器と言いました。腎臓は非常に代償性(どこかが悪くなると、ほかのどこがが人一倍がんばって代償する体の基本的機能)に優れているため、少々のことでは症状がでません。したがって、片方の腎臓をとっても、もう片方ががんばるため影響があまり出ないのです。ところが、4分の3以上がダメ(75%以上)になると、一気に悪化し、とめようもない進行性腎不全状態に陥ります。つまり血液検査で引っかかるレベルでは既に75%以上の腎臓が機能していないということを覚悟するべきです。

-猫ドックや犬ドックの検診を-
 通常、動物病院で腎不全と診断されるのは第Ⅲ期ステージであることが一般的です。早く気づけばそのぶん長く生きられる可能性も高くなります。第Ⅳ期になってしまうと、もはやニャンともしがたい難しい状況となります。が、最終の第Ⅳステージでの来院も稀ではありません。これは上記の治療を集中的に実施し、第Ⅲステージまで改善させることも可能です。
 高齢になれば、予防的に腎臓食を与え始めたり、毎年2回くらいの健康診断をお薦めします。
特に早期からの食事療法は生存期間を大幅に延長させることができます。ぜひ人間ドッグよろしく犬ドックや猫ドックの検診をお願いします。

-最後に-
 さて、長々と腎不全に関して語ってまいりました。ご理解いただけたでしょうか?
参考程度に書きましたが、病態生理まで飼い主さんが知る必要はありません(さんざん書いておいてすみません笑)。それよりも、特定の症状を覚えておいていただければ、少しでも病院に早く連れてこられるかもしれません。多飲多尿、長期にわたる体重低下、慢性の嘔吐、毛や皮膚の退色、などはわかりやすい症状です。に加え、クッシング症候群や、糖尿病、子宮蓄膿症、甲状腺機能亢進症などとも重複する症状ですから、腎不全に限らず覚えておいて損はないとおもいます。

 あれ?慢性腎不全はわかったけど、急性もあるんじゃないの?とお思いの方、いい質問です。しかし急性腎不全の機序は、慢性腎不全とはまったく違うのです。それについてはそのうち特集を組むとしましょう。
 そろそろ腎不全もおなかいっぱいになったようなので、このへんでやめておきましょう。お終いにゃん。

文:小川篤志

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