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ペット豆知識No.18-腹囲膨満・お腹パンパンそれ肥満?-

 かわいくも見えるポンポコおなか。それ、かわいいだけで済ませてませんか?妊娠しているだけですか?ただ太っているだけですか?急激な腹囲膨満は重篤な病気がたくさん。緊急処置をしなければ死に至るものが多くあります。症状からみる豆知識シリーズ第2弾、今回は腹囲膨満についてご紹介いたします。

 突然ですが、動物は人間と違って自覚症状を訴えることは多くありません。もし自分自身に異常が起こっていたらすぐに病院にいこうと思いますが、動物は飼い主のあなたが気づいてあげなくては病気でいても病院に行くことすらできません。それだけに、日頃から犬と遊んだりしつけをするのはもちろん、些細な異常も感知できるようペットの体調、体つき、食欲、飲水量、便、排尿などをよく観察しておくことがとっても大切です。

 そのなかでも、今回は体つきという見た目である面、飼い主のみなさまにも気づきやすい症状であると思います。腹囲膨満とは、急性あるいは慢性的におなか周りが張って膨らむ症状のことです。腹囲膨満を起こす代表的な状態と疾患をまとめてみました。

① 肥満:腹部痛はない。胸部、背部にも皮下脂肪がある。
② 妊娠:メスのみ。交配はあったか、乳腺の発達の有無などをチェック
③ 腹水症:重篤な疾患が多く、類症鑑別が重要。後ほど詳しく。
④ 消化管の拡張:胃拡張、捻転、腸閉塞など。
⑤ 腹腔臓器の腫大:子宮蓄膿症、肝腫大、脾腫、膀胱の膨満など。
⑥ 腫瘤:腫瘍、血腫、膿瘍など。
⑦ ホルモン性疾患:クッシング症候群、甲状腺機能低下症。

 上記の通り、おなかが張るのは肥満や妊娠によるものだけではないことが明らかです。順に説明していきましょう。

 まず、もっとも警戒すべきもののひとつに腹水症があります。本来、腹腔内臓器は腹膜という薄い膜で覆われていて、この腹膜は、臓器の防御と、特に物質の吸収をするという地味だが非常に重要な役割を担っています。その機能を上回るほどの液体が腹腔内に発生すると、腹水となり、それが多量に貯留すれば外貌からも判断できる腹囲膨満という症状となります。
腹水にも、いくつかの種類があり、原因によって性状が異なります。難しい話をすれば、総タンパク質や比重、細胞成分などによって細分化されますが、ここではわかりやすいよう簡単に分類しておきます。
1)血液
2)化膿した液体(化膿性滲出液)
3)水様の液体(漏出液および変性性漏出液)
4)ミルク色の液体(乳状液)

 最初に示した1)の血液が腹腔に貯留する原因としては外傷(事故による内蔵からの出血や、術後の出血によるもの)、腫瘍(血管肉腫など)、胃や脾臓の捻転による血管破裂、また血液凝固異常などもあげられます。
 2)の化膿性滲出液は、文字とおり“うみ”が溜まってしまうことです。子宮蓄膿症の破裂、腸の穿孔による内容物の漏出、外傷による腹部の穿孔、細菌や真菌感染の波及により発生します。
 3)では、低タンパク血症(低栄養、リンパ管拡張症、ネフローゼ症候群、タンパク漏出性腸症、慢性肝疾患など)、腫瘍(リンパ腫、腺がんなど)、また腸管から肝臓へと物質を輸送する門脈の圧が上昇するなどによって血管内から水分を引き出すことなどが原因で腹水となります。これらは“漏出液”と言われますが、“変性漏出液”では、うっ血性心不全(フィラリア症、僧帽弁閉鎖不全による左心→右心不全など)、腫瘍(特に血管やリンパ管を閉塞させる腫瘍)、これらによって水圧(肝静脈圧や門脈圧)が上がり血管内から水分が漏れ出ます。
 4)の乳状液は先天性、腫瘍、結核やウイルス性の感染症、フィラリア症などの心不全、リンパ管拡張症、膵炎によって発生する“乳び”と呼ばれる液体が貯留する場合や、“偽乳び”とよばれる乳びとは性状の異なる液体が貯留する場合があります。これはリンパ管圧の上昇によりリンパ管や乳ビ槽の破綻(破裂)によってもたらせます。
 ほかにも1)と3)が合わさった漿液血液状滲出液という場合もあり、それはやはり腫瘍(リンパ腫など)や、肝障害、猫伝染性腹膜炎(FIP)、脂肪組織炎、寄生虫性、破裂した膀胱や胆のうからの尿、胆汁により腹水となります。

 なんだか難しい単語をたくさん出してしまいました。流し読みしてしまった方のためにいいますが、これらに共通するのは、殆どがキケンであるクリティカル(重篤)な病気であるということです。代表的なものを抜粋すれば、例えば子宮蓄膿症の破裂によるもの、フィラリア、癌性腹水(腫瘍による腹水)、膀胱の破裂、猫ではFIPなど、早急に処置を必要とするものばかりなのです。

 しかし、おなかをパンパンに張らせるのは腹水だけとは限りません。ほかの原因だってまだまだあります。

 消化管の拡張も、おなかが張る原因の一つです。動物医療エマージェンシーの代名詞ともいえる、「胃拡張-胃捻転症候群」通称GDVは、胃が拡張し捻れる(捻転する)ことで胃の入り口と出口を閉塞させる疾患です。胃に付属する脾臓までも締め上げると同時に、胃内での発酵が進んでガスがたまり、急性に腹部が膨張する疾患です。明確な原因は未だ示されていませんが、疫学的には、大型犬に多く、食後の急激な運動のあとに起きやすいといわれています。熱中症とも関連し、夜間救急を主業務とする宮崎犬猫総合病院でも、夏場は多くのGDVが来院しました。
 腸閉塞、通称「イレウス」は、例えばボールを飲み込んだり、腸が内側にめくれこんで重なってしまう腸重積によって閉塞してしまうなどの場合と、機能的に腸管の神経が麻痺して閉塞状態となる場合とがあります。これらも、水道ホースの途中を塞ぐようなもので、閉塞部より前部の消化管でガスや内容物がパンパンに溜まり腹囲膨満となります。これも一刻を争う緊急疾患であることは言うまでもありません。

 腹水の部分でも触れましたが、破裂はしなくとも子宮蓄膿症によって膨らんだ子宮によって腹囲膨満となることもしばしばです。避妊の重要性が伺えますね。そのほか、肝臓の腫大や脾腫、腎臓の腫大でもおなかは大きくなります。腫瘍も腹水を溜まらせるだけでなく、大きく成長すれば腹囲膨満となります。
 ちなみに、動物では内臓腫瘍の治療は非常に困難で、抗がん剤療法も使用できるタイプは限られるし、手術するにしても延命率は人間ほど高くありません。人間のように腫瘍マーカーも動物用は今のところ無く、気づいたときには時すでに遅しということが多々あります。反面、人間よりも皮膚にできる腫瘍が多いのは事実で、これが冒頭で述べた「日頃からのペットの観察」が活きる部分でもあります。

 特殊な病気として、「クッシング症候群」という病気があります。特徴的なのは、腹囲膨満、薄い皮膚、脱毛、皮膚の色素沈着、などの症状が現れることです。ほかにも食欲の亢進、多飲多尿、元気があるなどの病気とは言えないような変わった病気なのです。副腎皮質ホルモン、つまりステロイドが多量に分泌されることでこういった症状が起きるホルモン性の特殊な腹囲膨満の原因ということです。

 これらのたっくさんある原因の中から一つの病気を診断するのは、ワザありものです。主訴、病歴の聴取、症状、病態、血液検査、超音波やレントゲンなどの画像診断、そしてなんといっても直感、これらを迅速にそして正確に把握し診断に結びつけることこそ、獣医師のテクニックなのです。私などはまだまだ未熟者ですが、プロフェッショナルな仕事をするために我々獣医師も日々努力して、あなたのペットが健康でいられるようサポートしていきます。

 さて、如何でしたでしょうか。なにもポンポコリンのお腹になるのは肥満だけではなさそうですね。あなたのペットは本当に肥満だけですか?もちろん、肥満は万病の源であることは言うまでもありませんが、これを読んで気になった方は一度動物病院で診察してみましょう。

 最近「たばる動物病院グループ」に来院した上記の関連疾患をいくつか紹介して、今回はおわりとしましょう。

 文責:小川篤志

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