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ペット豆知識No.24-高脂血症はあの怖~い「沈黙の殺し屋」=「生活習慣病」の一つです!-

 『サイレントキラー』という言葉をご存知でしょうか?
サイレントキラーとは、「肥満」「高血圧」「糖尿病」「高脂血症」の4つをあわせて、死亡の4大因子となり、しかも劇的な症状が現れにくいリスクファクターのことをいいます。サイレントキラー、直訳すれば『沈黙の殺し屋』とでも言いましょうか。なぜこれらが死亡のリスクを高めるのか、すでにご存知の方も多いでしょう。サイレントキラーが存在すると、全身の動脈の内側にアテローム性(粥状)の隆起が発生し始めて、いわゆる「カタ~イ」動脈の構造へと変化していきます。そう、ご存知の通り、これが動脈硬化症(粥状動脈硬化)です。動脈内に出来た隆起によって、徐々に血流を妨げてしまったり、血栓が出来たり、その血栓がほかの臓器に飛んだりするとその臓器の場所によって、おなじみ、脳梗塞、心筋梗塞などと呼ばれる死亡原因になるのです。いつぞや、院長コラムで書いてある、人の死亡診断書の書き方を参考にしてみると

(イ)脳梗塞:直接の死亡原因
(ロ)動脈硬化症による血栓塞栓:(イ)の原因
(ハ)リポ蛋白の血管内皮への蓄積による血行障害:(ロ)の原因・・・
(ニ)全身性高脂血症
(ホ)糖尿病による高トリグリセリド血症
(へ)劣悪な食事環境
(ト)忙しい仕事のストレス・・・・

 脱線してしまいそうなのでこの程度にしておきましょう。注目していただきたいのは、(ニ)の部分です。そう、人では動脈硬化には多分に高脂血症が関与していると考えられているのです。今回は、先日東京の京王プラザホテルで行われた日本獣医内科学アカデミーで拝聴した中の講座で特に印象に残った、「高脂血症」についてお話ししようと思います。

 高脂血症の原因に触れる前に、高脂血症とは何かという所から始めましょう。高脂血症とは『1種あるいは2種以上の脂質あるいはリポ蛋白の濃度上昇』とあります。???。分かりづらいですね。噛み砕いて言えば、『脂肪分が血中に多くある状態』と考えて頂ければ結構です。ここで重要なのは、リポ蛋白です。聞き慣れない単語で困惑するかもしれませんが、まだ我慢してください。リポ蛋白にはいくつか種類があります。

1.カイロミクロン
2.超低比重リポ蛋白(VLDL)
3.低比重リポ蛋白(LDL)
4.高比重リポ蛋白(HDL)

 つまり、『1種あるいは2種以上の脂質あるいはリポ蛋白の濃度上昇』というのは、これらの1~4のうち、1種あるいは2種以上が上昇してしまうと、残念ながら高脂血症と呼ばれてしまいます。ちなみに、健康番組などでお馴染みの悪玉コレステロールとはLDLのことで、逆に、高脂血症がもたらす動脈硬化を抑える役割のある善玉コレステロールと呼ばれるのがHDLなのです。(ちなみに、人間はLDLが多いが、犬猫は、HDLが圧倒的に多く存在する)あれ?じゃあリポ蛋白って結局コレステロールなの?いえいえ、決してそうではありません。例えば、1のカイロミクロンにはトリグリセリド(中性脂肪)が多いですし、逆に、LDLではコレステロールが多く含まれます。つまり、リポ蛋白とは、血中でそのままでは存在しにくいコレステロールや中性脂肪が、蛋白質と合体し血中で安定しているもの、それが正体なのです。その密度によって先ほどの1~4までのように分けられています。ふむふむ。高脂血症とは、血中の中性脂肪やコレステロールが多いという、なんとも耳が痛い病気なのですね。

 高脂血症で重要なのは原因です。大きく分けて2つのパターンがあります。1つは一次性高脂血症、2つ目は二次性高脂血症です。
 前者は、原因不明あるいは遺伝的に、また高度な肥満によって見られる原発性の高脂血症であり、主にリポ蛋白リパーゼ(リポ蛋白を分解する酵素)の活性低下が原因と見られています。ミニチュアシュナウザーの高トリグリセリド血症や、シェットランドシープドッグの高コレステロール血症は比較的頻繁に見られる疾患です。他にもドーベルマンピンシャーや、ロットワイラーの一部の家系で報告があります。臨床レベルでは、特にシュナはかなり多いという印象を受けますね。ほかにも、猫の特発性高カイロミクロン血症がありますが、同じような機序が考えられています。
 後者の二次性高脂血症は、ある基礎疾患があり、それによって高脂血症となるものです。ある基礎疾患とは、糖尿病や膵炎、甲状腺機能低下症、副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)、肝疾患、ネフローゼ症候群などが挙げられます。もちろん食後の高脂血症もありますが、これは異常とは言えません。肥満による高脂血症は、もちろん異常です。ひとつの病気と考えてください。

 こういった高脂血症を診断することは簡単です。病院内の血液検査で10分もしないうちに中性脂肪やコレステロールを計測する事ができます。(正常な動物でも食後はもちろん上昇する)もっと簡単なのは、『見た目』です。血液を採って遠心分離をすると、細胞成分(血球)と液体成分(血漿)にわかれます。通常、血漿は透明ですが、高脂血症の動物ではこれが真っ白に濁るのです。ミルクのように。だから、血液検査でこれが見られたときは、飼い主さんにも見てもらうようにしています。肥満が原因の場合は良い啓発になりますからね。ただし、隠れ高脂血症として、血漿が透明なのに高脂血症であるということが少なからず存在するということにも注意です。

 サイレントキラーというだけあって、基本的に高脂血症自体で大きな症状が現れることは稀です。食欲減退、嘔吐、下痢、ケイレン、ブドウ膜炎から、黄色腫、末梢神経障害も見られる事がありますが、基本的には高脂血症そのものの症状よりも、警戒すべきは高脂血症が引き起こす二次性の疾患です。もちろん動脈硬化症もそのうちのひとつですが、犬猫では膵炎を最も警戒しなくてはいけません。膵炎については前回の特集を参照のこと、ですが、これは本当に怖い病気です。高脂血症がどの程度膵炎のリスクを上昇させるのか明確に判明しているわけではありませんが、かなり高率に発症するようですから注意が必要です。

 治療法です。人医療では、薬によって高脂血症を治療する方法がありますが、犬猫では投薬を積極的に行う必要はありません。(少なくとも当院では、そう考えています)学会では、積極的に投薬すべきとの見解でしたが、疑問に思った私は「基礎疾患による二次性高脂血症に対しての投薬はいかほどか」といった趣旨の質問をしたところ、その答えはなんとも『曖昧』でした。曖昧なので成書にて自分で調べたところ、Small Animal Internal Medicineの中では、少なくとも否定的でした。他のいくつかの文献でもあまり投薬療法は推奨されていません。しかし、何も学会の高脂血症講座を非難したいわけではありません。つまり、投薬療法は最後の手段として残しておき、その前に出来ることがあるのです。それは食餌療法です。高繊維で低脂肪のフードを与え、高脂血症をコントロールする方法です。肥満があれば、ダイエットをします。それでもだめなら、最後の手段として投薬を考慮すべきではないかと考えています。

 ここまで話しておいて難ですが、実は犬猫の動脈硬化についてはあまり研究されていないのが実態です。ただ、やはり慢性的に高脂血症があった犬の病理解剖をしてみると、見事な粥状動脈硬化症が見られるのは事実です。何が言いたいのか。ポイントから話すと、犬猫の高脂血症により動脈硬化がどの程度顕在化するかどうかは結論づけられてはいませんが、やはり膵炎をはじめとした万病のリスクとなることは否めないことです。人の高脂血症(メタボリックシンドロームなど)はこれだけ騒がれているのに、犬猫はあまりフィーチャーされない。つまり犬猫の高脂血症についても軽視するべきではなく、飼い主さんの意識改革を積極的に行う必要があるっ!!!!と私は考えています!これを機にご自身の生活習慣病とともに、動物の高脂血症についてもすこし考えてみてはいかがですか?

文責:小川篤志

追補:ひと昔に比べ、犬・猫の肥満をはじめとした、高脂血症や高コレステロール血症、糖尿病や副腎皮質機能機能亢進症、腎性高血圧などの疾患が格段に増えたのは否めない、客観的な事実です。また、それに随伴するものかは詳細な追跡研究(検証)が必須ですが、心筋梗塞や脳梗塞、脳出血に因ると示唆される突然死や突発の神経症状の発現なども時に遭遇する事例です。肥満をはじめとしたサイエントキラーが犬・猫の「寿命」や「生活の質」を低下させることに関して疑念を持つ人は、今やいないでしょう。治療に関しては、Dr.小川が書いているように、コンクリートなコンセンサスが得られていないのが現状です。しかしながら、人の場合と同様に、「禁・脱・メタボ」のキーワードは「体重のコントロール=ダイエット」と「食餌の内容の改善=低脂肪食」に他ならないなのです。(文責:田原秀樹)(ペット豆知識・号外-あなたのペット知識度。知っていて損をしないワン・ニャン問-を参照)

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