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ペット豆知識No.25-犬・猫の寿命と死因-

 人間を含め動物全体に言える事であるが、病気とその治療を語る上で最も重要なものの一つは「寿命」と「死因」である。現在、先進国で支持されている犬と猫の老齢年齢は、5kg前後以下の犬と猫で12歳(天寿は15歳以上)、10kg前後の犬が10歳(同12~13歳以上)、20kg以上の犬は7~8歳(10歳以上生きれば文句は言えない)である。今回は犬・猫の寿命と死亡原因について考える。

 データが限られているなか、東京農工大学の林谷秀樹氏の資料(37都道府県・121の動物病院・2002年8月~2003年7月の1年間に死亡した犬3239頭、猫1777頭)によると、犬の平均寿命は11.9歳(1990年は8.6歳)、猫が9.9歳(1990年は5.1歳)と延びている。

 20~30年前、犬の死因で断トツ1位であった犬フィラリア症による死亡は2.9%(1990年は30・3%)、交通事故は4.5%(同12・0%)と特に激減している。当時の犬は外飼いで多くは5~7歳にフィラリア症(特に急性で頓死していた)で絶命していた。猫では感染症が15.6%(同25.6%)、事故が5.7%(同18.0%)であった。フィラリアの予防やワクチン接種、それに室内飼育が奏効した結果である。

 人間の死因は、死亡後に役所への届け出義務があり、5年に1度は国勢調査が実施されるため、ほぼ正確に把握されている。生命保険会社のデータも信頼できるものである。現在では癌が約30%で1位、2位と3位はほぼ同じ率で、心筋梗塞などの心疾患と脳梗塞などの脳・血管の疾患が約15%、これら上位3疾患で60%強である。

 一方、犬・猫の死因については、①人のように届け出義務がないか、唯一ある狂犬病予防法は必ずしも厳格でない、②ペット保険がそれほど普及していない、③最近の急激とも言える寿命延長と治療法の進歩で死因自体が大きく変わりつつある・・・などの理由で不明・不詳な点が多い。
 
 その中で、最近あるペット保険会社が死因についてのデータを発表している。それによると、犬では1位が悪性腫瘍(13.2%)、2位が事故(12.6%)、3位が感染症(8.2%)、4位が呼吸器疾患(6.6%)、5位が消化器疾患(6.3%)、6位が神経疾患(6.1%)、7位が循環器疾患(5.0%)となっている。猫では1位が感染症(20.9%)、2位が事故(11.6%)、3位が泌尿器疾患(9.5%)、4位が循環器疾患(8.3%)、5位が悪性腫瘍(6.9%)と続く。

 しかし、このデータも、子犬を購入する時、生命補償という形でペット保険に加入しているため、パルボやケンネル・コーフ、寄生虫、水頭症、先天性心奇形などの死因が多いものと想像される。また、都会と地方、犬や猫の種類、屋外と屋内、病院等によってデータに差異があるから、このデータが犬の死因の概要を的確に示しているとは、到底考えられない。

 そこで今回、「たばる動物病院グループ」の過去15ヶ月間の犬と猫の死亡原因について調べたところ、興味ある結果が得られた。

 本院と神宮分院を合わせた犬での死因の第1位は癌で全体の35%、次いで心疾患が17%(うちフィラリア症は1例のみ、多くは僧帽弁閉鎖不全症)、老衰が15%、自己免疫介在性溶血性貧血が6%、事故が5%、腎不全が4%、肝不全が3%、肺炎と熱中症が2%と続き、その他にはクッシング(副腎皮質機能亢進症)、特発性血小板減少症、自己免疫介在性溶血性貧血、胃捻転などがある。

 猫の死亡原因としては、腎不全が33.3%で1位、癌が23.8%(内白血病が4%)で2位、新生仔の死亡(衰弱や呼吸器病など)が13.7%で3位、心疾患(肥大型心筋症)が11.8%で4位、事故が7.8%、糖尿病と甲状腺機能亢進症がそれぞれ4%の順であった。

 夜間救急を見ると、犬では1位の癌が31.8%、2位が15.5%で心不全(肺水腫を伴う場合が多い)、3位が10.1%が老衰、4位が6.8%で腎不全、5位が事故で6.8%、6位が自己免疫介在性溶血性貧血で4.7%、その他に肝不全、胃捻転、中毒などがある。猫では腎不全が22%で1位、ウイルス性の風邪による重度肺炎や衰弱などでの新生仔の死亡が2位で15%、来院時既に死亡しているかもしくはそれに近い状態(DOA=dead on alival)で原因不明なものが3位で13%、腫瘍が10%で4位、事故が8%で5位、心疾患と呼吸不全がそれぞれ8%で6位であった。

 以上、「たばる動物病院」でのデータも提示し、主に「犬・猫の死因」について述べた。予想に反せず、犬では腫瘍が、猫では腎不全が第1位で、それに続く心不全や事故、免疫疾患など、現状の臨床レベルでは治療に限界を感じる疾患が上位を占めた。夜間では道端で動けなくなった交通事故の猫が持ち込まれることも稀ではなく、胃捻転や中毒のような救急もある。当然とも言えるが、昼間と夜間での診療内容の差が浮き彫りとなった。データの整理には思いの外、苦労した。常にデータを意識し、日々の診療に臨むことの重要性を再認識した次第である。今後も是非機会をつくり、さらに掘り下げた内容の「ペット豆知識」としたい。

「たばる動物病院」獣医師一同

 

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