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ペット豆知識No.28-犬の僧帽弁閉鎖不全症と犬猫の腎不全-MRT「ペット・ラジオ診察室」5/28、6/4分。

-5月28日分・犬の僧帽弁閉鎖不全症

-僧帽弁閉鎖不全症-
●心不全は犬の死因の上位を占める。先天性の心疾患やフィラリア症もあるが断トツで本症が多い。
●僧帽弁閉鎖不全症は全心疾患の75~80%を占める。
●犬種特異性がある。キャバリアやマルチーズ、シーズー、ダックス、パピヨン、プードル、チワワなどの小型犬~中型犬に多い。早くは3歳位で本症が確認される事も有るが、5~6歳以上での発症が一般的である。年齢が増えるに伴い発症率も上がる。全ての犬種が罹患するが、柴犬で散見され、大型犬では多くない。猫での本疾患は報告されていない。
●当「たばる動物病院グループ」(本院と夜間救急病院)でのキャバリアとマルチーズの本疾患の罹患率を調べたところ、10歳以上のキャバリア17頭中全て(100%)の個体が本疾患に罹患しており、11頭(約65%)が投薬・治療されている。10歳以上のマルチーズでは57頭中17頭(約30%)に薬物投与がなされている。
●病態(原因):左の心臓の左心室と左心房の間にある弁(僧帽弁)が「粘液変性」を起こし、弁が伸展して「ちゃんと」閉まらなくなり、本来左心室から駆出された血液は大動脈を介して全部が全身に行くべきだが、一部左心房へ逆流し、そのため全身の組織へ運ばれる酸素量が減る。また、拡張した左心房が気管を刺激して発咳を起こし、さらに悪化すると上昇した左心房圧が肺水腫を惹起する。
●症状:発咳やチアノーゼ、運動不耐性。特に咳が重要で、「ケッケッ」・「ケホケホ」・「カッカッ」のような咽喉に何かを詰まらせた風の乾いた咳(乾性発咳)は、ある程度病態が進行した時点で見られ、興奮時など心臓の動悸が気管を物理的に刺激することで起こる。肺水腫の状態になると、「ゼーゼー」・「ゼーコゼーコ」という「湿性発咳」が見られる。さらに悪化すれば咳をする元気や気力も失われる。
●診断:聴診(収縮期雑音)と心エコー検査で比較的簡単に診断可能である。
●治療:既に症状が見られれば、即治療を開始する。収縮期雑音の程度が中程度を超えた場合、左側の胸壁に指先を当てると心臓の逆流音が胸壁を振動させて震顫(しんせん、又はスリル)を感じるようになる。この震顫を感知するか、又は心エコー検査で左心房の拡張が中程度以上あれば、症状が無くても治療を開始する。正常犬の左心房と大動脈の径(長さ)はほぼ等しいが、僧帽弁閉鎖不全症では左心房径が増大する。たばる動物病院では左心房径が大動脈径の2倍前後以上であれば治療の開始を検討することとしている。診断がついた時点で無症候性であっても、投薬を開始することで、発症までの期間を3~5年遅延させることが可能とされている。無治療の場合、心雑音が聴取されてから2年以内で咳などの症状が現れるのが一般的である。
●この意味からも、6歳を超えたら、年1~2回の健康診断を受けることが肝要である。また6歳以下であっても、ワクチン接種時やフィラリアの検査時には心臓の聴診を丹念にしてもらうことが重要である。
●日常生活の三原則=「三種の神器」は「減塩食=心臓病食=普通の5分の1~10分の1に制限」、「体重減少」、「運動制限=興奮させない」である。
●治療の三原則は「血管拡張薬=ACEインヒビター」、「冠動脈拡張剤=硝酸系=ニトログリセリンなど」、「利尿剤」である。「気管支拡張剤」、「強心剤」を加えて投与する場合も少なくない。
●さらに重度化すれば、「水分制限=体重当たり1日量30~50mlに制限」や「携帯酸素=自宅での酸素吸入」が加わる。
●以前、「肺水腫」が2度か3度起こればそれ以上の救命は困難であったが、最近の総合的=集学的治療を実施することで、肺水腫で「ゼーコゼーコ」いって病院に駆け込むことが5回を超えても救命可能となっている。診断・投薬開始後5年、8年と生存し、天寿を全うする症例も多い。
●飼い主が「愛情」を注ぎ「病気と共存」させることで、犬も賢くなり、むやみに無駄吠えしたり、はしゃがなくなるなどの「学習」が見られる。
●「間違った愛情」として、親爺が塩辛い酒のツマミを与えたとか、いつも可哀想なので「曝食」させた、などがある。こういう時は決まってその夜中か翌早朝に「肺水腫」が起こり、病院に駆け込む破目に陥る。
●これからの時期、本症に罹患している犬は「熱中症」に注意する。

6月4日分-犬と猫の腎不全-
<腎不全の原因>
●犬と猫の腎不全は死因の上位にあり、特に猫では癌に次いで2番目に多く見られる。
●腎不全の原因は、人でネフローゼなどの免疫関連が主因であるのに対して、犬・猫での原因は不詳な点が多い。
●犬のフィラリア症や猫での伝染性腹膜炎や猫白血病、猫エイズが関与しているとの報告がある。犬のレプトスピラ症や猫の下部尿路疾患(結石などが尿道を閉塞)は急性の腎不全を呈する。
●猫の腎不全が多い理由は、猫のルーツが自由に飲水出来ない砂漠という環境にあって、腎臓の濃縮力が犬や人に比べて高いことから、腎臓への負担が大きいことによる。
●加齢も人間同様に腎不全の原因である。人での腎機能は生まれてから18歳まで上昇し、40歳~50歳まで平行でピークを保ち、その後は加齢とともに「右肩下がり」に低下する。これを小型犬と猫に当てはめると、1歳でピークに達し、6歳を過ぎると直線的に機能が低下する。
●猫での「ユリ中毒」と犬の「ブドウ」と「レーズン」中毒に注意。長めの葉を食べる習性のある猫はユリ中毒を起こす。2~4時間で嘔吐が見られ、24~72時間で尿毒症に至り、死亡率は高い。人で葡萄は「抗酸化作用」が認められているが、犬では猛毒である。2~3時間で嘔吐、12~24時間に至る。膵炎も併発する。皮や種をそこらに放置したり、犬が漁る危険のあるゴミ箱に入れないように注意が必要である。(近々放送予定)

<腎不全の診断>
●診断は症状と血液検査で行う。
●急性腎不全か慢性腎不全かの見極めが重要である。急性腎不全の症状は急な嘔吐や下痢であるのに対し、慢性腎不全では1~3ヶ月前からの多飲多尿、削痩、嘔吐が主な症状である。特に慢性での多飲多尿に留意する。多飲多尿は腎機能が低下した結果、尿の濃縮力が弱って起こるため、実際には「多尿」が先行し、咽喉が渇くことで「多飲」となる。臨床の現場では、元より慢性的な腎機能低下が存在し、それが急性的に悪化して来院するケースが少なくないと考えられる。
●先に述べた急性腎不全の原因は犬のレプトスピラ症(細菌)、猫の下部尿路疾患(結石などが尿道を閉塞)などがあり、急性腎不全では腎臓の腫大と痛みがある。早期の適切な治療で完治できる場合が少なくなく、慢性化させないのが大切である。レプトスピラ症で来院した場合、50%以上の致死率だが、ワクチンがある。これは人にも感染する怖い病気である。
●腎機能の血液検査はBUN(血中尿素窒素)とクレアチニンがあるが、この2つの値の上昇は腎機能が75%~80%障害されてから見られる。因みに症状の出る「腎不全」は残存腎機能が5%以下である。

<治療と予防>
●ここでも犬ではフィラリア予防、レプトスピラの予防接種を行う。猫では白血病やエイズワクチンの接種が望まれる。
●治療は血液透析や腹膜透析も考えられるが、透析膜に触れる体外の血液量が多いことや、汚染の問題、保定の困難性、費用などの点から、実用は厳しい状況にある。
●現段階での犬・猫の腎不全治療の「三種の神器」は「食事療法=減塩・適蛋白・低リン食」、「活性炭」、「(皮下)輸液」である。減塩は循環血液量を減らすことで腎臓の輸入細動脈圧を低下させ、また腎臓からのNa排泄の観点からも腎臓への負荷を減少させる。蛋白質は腎臓の血流量を増加させることで腎臓への負荷を増す。しかし、人と同じ程度まで制限するとかえって腎不全を進展(悪化)させることが分かっている。「適蛋白」の量は犬で1日当たり2~2.5g/kg、猫で3~3.5g/kgである。人とマウスの類では「低蛋白」でなければならない。ここでも種による相違が見られる。食餌で摂ったリンはそのほとんどが腎臓から排泄されるが、腎不全ではその排泄が滞り、血液中のリンが増大することになる。そこで生体はリンとカルシウムの掛けた値を正常に保つためにカルシウムを細胞内に移動させる。細胞内に流入したカルシウムは細胞傷害性が強く、腎臓の細胞にも損傷を与えることになる。「活性炭」は本来腎臓から排泄されるべき尿毒症物質を消化液を代わりとして吸着し、便中に出す。「輸液」は点滴液を負荷することで利尿効果を狙って行う。
●最近では腎臓の高血圧を和らげる目的で「血管拡張剤」の服用も推奨されている。全身性の高血圧も腎不全の進展因子の主因の一つであり、犬猫とも人の腎不全同様に高血圧の認められるケースが多いとされる。
●6歳を過ぎたら、最低年1回、出来れば2回、10~12歳以上では3~4回の検診が推奨される。犬猫は1年に4歳以上歳を取る事を念頭に入れて置く。健康診断(腹部触診とエコー検査)と血液検査を行う。
●血液検査項目はBUNとクレアチニンで診断が可能である。しかし、これらは全体(若齢時)の機能の75~80%の機能が失われないと異常値にならないため、青年期の正常値を知っておき、検査で腎機能値のある程度の上昇が見られたら、食餌療法の開始を検討する。
●さらに言及すれば、老齢(人で言う年金受給年齢)に達したら「食事療法の王様」とも言うべきで「腎臓病食」を開始する。
●腹部触診で腎臓の萎縮や腎臓の表面が不整であれば慢性の可能性が高い。腎エコーやレントゲン撮影で腎結石や腎臓の石灰化などの異常も知ることができる。
●腎機能が低下していると、他の疾患で投薬をうける場合や麻酔を掛ける場合に、さらに腎機能を低下させることが考えられる。人間のように透析ができないため、極力腎不全を惹起させないことに傾注しなければならない。

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