コンテンツへスキップ

ペット豆知識No.29-犬猫が摂食・摂取してはならないもの・その1-MRT「ペット・ラジオ診察室」6/11、6/18放送分。

 犬猫の周りには毒だらけ! これは、Textbook of Veterinary Internal Medicine (6th edition、2005年)の242~261ページの翻訳を基にして作成したものである。たとえば植物毒(トマトやポテト、ナスなど)に関しては、以前の「ペット豆知識」に記載済なので、そちらを参照のこと。※※※(アメリカ合衆国の成書のため、本邦に存在しないものもあるので、要注意のこと)

●中枢神経系の変調と痙攣発作
①鉛:ペンキの欠片、釣用おもり、鉛製飾りなどの摂食による。数日で発症し、神経症状の他に食欲不振・嘔吐・下痢・便秘も見られる。徐脈や貧血も重要である。銃で撃たれて組織内に入った銃弾は中毒の原因にはならない。
②メタアルデヒド:ナメクジやカタツムリなどの軟体動物の殺虫剤の成分。摂食後30分から6時間で痙攣発作が見られる。明瞭な筋肉の震えがある。体温の上昇に対しては解熱剤は使用せずに冷却する。抗痙攣剤によく反応するが、高容量を要する。臨床症状は1~2日持続。急性の肝障害は1~2日して起こる。
③震顫誘発性菌毒素:penitrem A、roquefortine 。カビの生えた冷凍食品やゴミの摂食による。流涎過多や嘔吐が見られた後に痙攣が起こり、重度の筋震顫と高熱が普通にある。
④藍藻類(blue-green algae):③と同様な症状・症状を呈する。
⑤有機リン剤・カーバメイト(カルバミン酸塩):摂取後数分から2~3時間で発症。縮瞳と流涎が特徴。血中コリンエステラーゼ濃度で診断。
⑥犬のチョコレート中毒:摂食後12時間以内に痙攣が起こるが、それに先立って多飲多渇症や嘔吐、頻脈、落ち着かない状態がある。
⑦マリファナ中毒:最初は中枢神経の抑制、嘔吐、流涎過多、vocalizationなどの症状が見られ、後に痙攣が起こる。
⑧エチレングリコール:「急性腎不全を惹起する毒」で後述。
⑨エタノール:5~8g/kgの経口摂取が致死量である。

●筋肉の虚弱・不全麻痺・虚弱性麻痺を惹起する毒
①サンゴ蛇(coral snakes):アメリカ合衆国など(日本では無い)
②Black widow spiders:アメリカ合衆国(日本では無い)
③フェノキシル系殺虫剤(2-4Dなど):24時間以内に筋の虚弱や麻痺が起こる。
④通常家庭で使う殺虫剤:散布して間もない湿った芝生の上を歩いても吸収される。症状は嘔吐、下痢、肝障害、筋肉の硬縮が見られる。
⑤マカダミア・ナッツ中毒:毒素は不明な点がある。犬で1~2g/kg以上を摂取すると、通常最初に嘔吐が、その後沈鬱や筋線維束漣攣縮、高体温が同時に見られ、摂取後12時間以内に筋の虚弱や運動失調が起こる。

●急な失明
①塩の大量摂食により重度の精神活動の変化(重大な精神的な沈鬱や痙攣)が有れば、同時に目は見えていない筈であり、血中のナトリウム濃度は180mEq/L(正常は140~150mEq/L)を超える。
②馬の駆虫剤(horse dewormers):犬がイベルメクチンやモキシデクチンを含有する駆虫剤の誤食で急性の失明が起こりうるが、通常は2~3日で可逆性である。同時に運動失調や震顫、振とう、中枢神経系の沈鬱、痙攣が見られる。

●口腔粘膜障害:口腔粘膜損傷や潰瘍を起こす。これらの場合、催吐処置は化学物質性の食道炎を招く恐れがあるため、通常、禁忌である。
①腐食剤(corrosive acids):トイレクリーナー(toilet cleaners)や排水パイプ用洗浄剤(drain openers)、抗カビ剤(antirust compounds)などの摂食。
②アルカリ剤:アルカリバッテリー、ブリーチ(漂白剤)、自家製石鹸などの摂食。
③陽イオン(中性)洗剤:殺菌・消毒剤や軟化剤が織物に含まれたシーツ。
④液性芳香剤:猫でもっぱら。
⑤ホルムアルデヒド(=ホルマリン)

●急性腎不全を惹起する毒
①エチレングリコール中毒:虚脱や運動失調、嘔吐、横臥、痙攣を伴った大酒のみに似た症状を呈する。摂取後1~2時間内に代謝性アシドーシスが、3~9時間までに高血糖が、6~9時間までに高カリウム血症と低カルシウム血症が見られる。血中尿素窒素とクレアチニンが上昇する。診断は浸透圧ギャップ(osmole gap=実測の血清浸透圧と計算上の浸透圧値の差)が15mOsm/μL以上あるか、血液もしくは尿中のエチレングリコールを検出できるキットを使用して確定診断とする。
②犬のブドウ、レーズン中毒:摂取後2~3時間で主として嘔吐が出現し、その後多飲多尿、沈鬱、食欲廃絶、腹痛を伴う。吐物にブドウの残骸が有る。腎不全の症状は24時間内に起こり、一部では数日から3週間を要するが、補助(対症)療法に反応が見られ救命できる。同時に膵炎も併発する。
③猫のユリ中毒:テッポウユリなどは猫にとって急性腎不全を惹起し、致死的に危険である。摂食後2~4時間で嘔吐や食欲廃絶、沈鬱が見られる。24~72時間して、高窒素血症と等張尿症が見られる。

●急性肝障害を惹起する毒
①犬のマッシュルーム中毒:摂食後数時間で嘔吐、下痢、腹痛、食欲廃絶が見れら、1~2日で急性の肝障害が起こる。
②藍藻類(blue-green algae):通常は池の水を飲むときに藻を摂取する。6時間以内に嘔吐、下痢、腹痛が起こり、藻の種類や摂食量によって異なるが、数時間から数日で肝内出血や低容量性(循環血液量の減少による)ショック、急性肝不全へと進行する。鼻や唇など鼻づらや口腔の内外を丹念に調べる。
③鉄中毒:ビタミン複合剤(マルチビタミン)の過剰摂取によって起こる。はじめに胃腸障害が見られるが、外見上は2~3時間で回復し、その後虚弱が進行して事によるとショックに陥る。肝不全の徴候は1~2日して起こる。ビタミン中の鉄分はレントゲンには写らない。血清の鉄結合能以上に血中鉄濃度が上昇する。
④サゴヤシ(sago palm)、ソテツヤシ(cycad palm):急性胃腸障害ののち、摂取後1~3日で急性肝障害が起こる。虚弱や運動失調、沈鬱、痙攣が見られる個体もある。全部位に毒素が有るが、特に種に多い。平均的サイズの犬でも1~2個の種の摂取で致死量となる。一般的に死亡率は33%と高い。

●重度の貧血を惹起する毒
①犬のタマネギ中毒:タマネギやネギ、ニラ、ニンニクの摂食で起こる。11kgの犬が3.5オンスの細切したタマネギを食すれば症状が見られる。
②亜鉛(zinc):一部の貨幣、亜鉛メッキされたナットやケージワイヤー。
③衣類に使うナフタレン防虫剤(naphthalene mothballs):中型犬には1個で症状が出現する。呼気にナフタレンの臭いがあれば、胃腸障害が出る。摂食後1~2日でハインツ体溶血性貧血とヘモグロビン尿を認める。
④猫のアセトアミノフェン(解熱・鎮痛剤)中毒:メトヘモグロビン血症、ハインツ体貧血と溶血の原因となる。
⑤猫の殺鼠剤(rodenticide)による貧血:抗凝固作用のある殺鼠剤の摂食で出血し貧血を呈する。メレナや鼻出血、血尿など出血の明らかな症状が有る。肺出血や気道の血腫による呼吸困難や、循環血液量の減少と貧血で昏睡状態に陥る。採血後の止血の困難性など凝固不全で、遅れて診断がつくことも有る。出血の程度などにより血液検査上、へマトクリット値の減少をつかめないこともある。プロトロンビン時間は顕著に延長するため、診断に極めて有効である。

●心臓に異常を来たす毒
①キツネノテブクロ(foxglove=ジギタリス、学名:gigitalis purpurea)、ドイツスズラン(lily of the valley)、セイヨウキョウチクトウ(oleander)、Azalea(ツツジ、サツキ、アザレア)、シャクナゲ(rhododendron)、ヤドリギ(mistletoe)、イチイ(yew):心房性もしくは心室性期外収縮などの不整脈が主に発現するが、心臓弁の逆流のような組織的変化も起こる。不整脈や失神、虚脱に関連した昏睡など身体的異常が見られる。心電図のモニターが必要である。

●胃腸障害を惹起する毒
①砒素:ある種の蟻獲り、除草剤に含まれる。尿中砒素濃度が1ppm以上であれば中毒と診断する。
②ヒマの種(castor beans):ビーズのアクセサリーとして利用される。摂取後6時間以内に嘔吐が見られる。
③窒素・リン・カリウムの化学肥料
④シュウ酸カルシウムを含有する植物
⑤酸化亜鉛:皮膚の軟膏剤を皮膚を舐めて摂取するか、チューブから直接摂食する。
⑥リン化亜鉛:ホリネズミ獲り。胃腸障害と同時に通常肺水腫も見られる。摂取後15分~4時間で起こる。ホスフィンガス(腐った魚臭)の臭い。

先頭へ

電話受付