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ペット豆知識No.37-ダニの生態と犬猫に媒介する疾患-MRT「ペット・ラジオ診察室」・9月10日放送分

 前々回はノミの生態とそれが伝播する疾患について述べた。今回はノミ以上に「こわ~ぃ」マダニがテーマである。

●2008年、宮崎で「日本紅斑熱」というマダニの媒介で罹患するリケッチアが病原体(Rickettsia japonica)の疾患で死亡した。日本紅斑熱はマダニの刺咬によってのみ人に感染する。
●1932年~1945年の日本細菌兵器研究部隊では、野兎病(Tularemia、ペストに類似した症状)菌を満州で扱っていた史実が有る。アメリカ合衆国や旧ソ連軍も開発を試みた歴史的経緯があるほど、恐ろしい菌である。野兎病菌(Francisella tularensis)に感染したウサギなどの野生動物と直接接触したり、剝皮や調理の際に血液や肉に直接することで感染する。また、ノミ、ダニ、蚊などを媒介して経皮的に、あるいは食事や飲み水を介して経口、経気道的に感染する。
●ダニはノミと同じく節足動物であるが、ノミがシラミの仲間であるのに対して、ダニは蜘蛛に近い。
●正式な分類は節足動物門鋏角亜門クモ綱ダニ目で世界に約2万種あって、大きいものでも1cm程度である。
●犬・猫に関係が深いものが、マダニと疥癬ダニ、ニキビダニ、ハウスダストマイトなどである。
●宿主の捕捉:屋外の草むらなどには、幼ダニ、若ダニ、成ダニの3段階のマダニがいる。これらは草に登り、葉っぱの先端で犬や猫などの動物を待つ。そして動物が近くを通過した時、動物からの熱や振動、二酸化炭素を感知して付着し、吸血を開始する。人間にも寄生すること有り。
●マダニの発生には温度や湿度など様々な要因が複雑に関与している。一般にマダニの活動季節は春から夏と言われているが、地域やマダニの種類によっては冬季にも寄生を認める。実際、冬季に猟犬がマダニの被害に遭う事は良く知られている。
●犬への寄生が認められたマダニには、フタトゲチマダニ、キチマダニ、ツリガネチマダニ、ヤマアラシチマダニ、ヤシチマダニ、ヤマトマダニ、タネガタマダニ、シュルツェマダニ、タカサゴキララマダニ、クリイロコイタマダニが有る。
●猫にも寄生する。それらには、フタトゲチマダニ、キチマダニ、ヤマトマダニ、タネガタマダニ、シュルツェマダニ、タカサゴキララマダニ、オオトゲチマダニ、ヤマトチマダニ、ミナミネズミマダニが有る。
●マダニの直接的な被害として、貧血や皮膚の損傷、皮膚の細菌感染、アレルギーが有る。
●マダニが犬に媒介する病気としては、バベシア症、ライム病、エリキア症、へパトゾーン症などがある。
●猫のマダニ媒介性疾患としては、猫ヘモバルトネラ症とQ熱がある。
●日本での犬のバベシア症はBabesia gibsoniとB.canisがあり、後者は沖縄県のみ。前者は近畿以西の西日本に多いとされたが、最近では犬の移動が頻繁であるため、関東でも見られるようになった。後者もその遺伝子が本州のダニから検出されており、両者ともに拡大が問題視されている。
●B.gibsoniを媒体するダニ(ベクターという)は主にフタトゲチマダニで、他にツリガネチマダニ、ヤマトマダニ、クリイロコイタマダニであり、B.canisのベクターはクリイロコイタマダニである。
●青森県では闘犬用の土佐犬の間で感染が広がっていることから、血液を介した犬から犬への直接伝播や、胎盤感染も疑われている。当然ながら輸血でも感染が成立する。
●感染後7~10日で発症する。主症状は感染症に特有の発熱と貧血である。貧血はバベシアの赤血球内寄生による溶血性である。その溶血に伴い血色素尿と黄疸もしばしば認める。血管内溶血、食欲不振や頻脈など多くの症状を伴う。腹部触診では脾腫が見られる。血液検査では血小板減少症と赤血球の再生像を認める。確定診断は赤血球内のバベシア原虫を顕微鏡で検出することによる。
●血小板減少は抗血小板抗体の産生による。貧血もバベシア自体によること以外に、赤血球膜分子の変性の結果産生される抗赤血球自己抗体による赤血球破壊のメカニズムがある。複雑な免疫反応の結果である。
●治療はガナゼック(商品名、一般名はDimenazene aceturate)が有効であるが、小脳出血等による神経症状で死に至る事があるため、使用量とその方法に注意を要する。スルファ剤と抗生剤の合剤や免疫増強剤を補助的に投与する。自己免疫の関与が疑わしい場合には、ステロイド剤の同時投与も検討する。輸血もしばしば行うが、強制給餌を含め栄養の補給が極めて重要である。
●治療によって回復後もバベシア原虫は完全に排除されず、骨髄や脾臓などに持続感染しているため、宿主の抵抗力の低下で再発する場合が少なくない。
●外国では猫の小型バベシア症(B.felisとB.cati)が分布する。今のところ、日本では存在しない。
●ライム病(Lyme disease、ライムボレリア症=Lyme borreliosis):ノネズミやシカ、野鳥などを保菌動物とし、マダニに媒介されるスピロヘータの1種・ボレリアBorreliaの感染によって惹起される人獣共通感染症である。野生動物では感染しても発症しないが、ヒト、犬、馬、牛では臨床症状を示す。日本では夏から初秋にかけて、北海道や長野県などの山岳地域などで発生する。感染は病原体を保有するノネズミ、鳥に吸血し病原体を有したマダニ(シュルツェマダニ=北方系で日本では中部地方以北で多く分布し、北海道では平地の草叢でも普通に見られる)により媒介されて起こる。ヒトでの皮膚の遊走性紅斑Erithema migransはライム病に唯一特徴的な病態であるが、犬での観察は困難である。日本国内での犬のライム病は神経症状が主体であり、髄膜炎や脳炎、顔面麻痺などが出現する。循環器症状として、心筋壊死や心内膜炎、それに伴う房室ブロックが認められる。
●エーリキア症(Ehrlichiosis):リケッチア目、Ehrlichia属(宿主は犬およびヒト)、またはAnaplasma(アナプラズマ、宿主は犬、ヒト、馬および牛)によって起こる全身性感染症である。日本では海外での飼育歴をもつ犬自体や、犬に寄生したマダニからこれらの病原体のDNAが検出されているが、幸いにも本邦での発生や流行は今のところない。しかし、特に外国から輸入されたり、渡航歴のある犬の場合、症状(出血傾向や血小板減少)によっては本症を疑う必要のある、危険性の高い疾患である。病原体としては、Ehrlichia canisやEhrlichia ewingii、Anaplasma platysが犬での宿主とされる。
●犬・猫のコクシエラ症(Q熱):犬、猫が宿主でコクシエラ菌(Coxiella burnetii)に因る。世界各国で発生が見られ、我が国の猫のも抗体陽性例を認める。保菌動物の排泄物からの吸入感染により伝播するが、自然界では多くの動物やダニが保菌していることから、これらも感染源となる。ほとんどの感染動物は無症状で、不顕性感染が主である。妊娠動物では流死産ないしは虚弱子で出生し短期間で死亡する例がある。Q熱は人獣共通感染症の一つ。病態は大まかに急性型と慢性型の二つに分けれる。人では重篤となるケースもあるため、人医療では常に念頭に入れて置くべき疾患である。
●猫のヘモバルトネラ症:猫の赤血球に寄生するマイコプラズマ(ヘモプラズマという)に因る、貧血を呈する疾患である。赤血球表面に吸着するように寄生して、それらを溶血させる。貧血と間欠的発熱、食欲不振などが主症状である。いわゆる「ネコ風邪」や、猫エイズ、猫白血病などに感染し、免疫や抵抗力が低下した個体で発症する傾向にある。自然感染では、猫同士の咬傷、ダニやノミおよび母子感染によって伝播されると考えられているが、まだ十分な確証はない。尿と唾液には感染性がない。
●耳疥癬症:耳疥癬は、耳ヒゼンダニ(耳疥癬虫、Otodectes cynotis)による犬と猫の寄生虫性皮膚疾患である。耳疥癬は感染力が強く、直接接触により伝播する。長い脚をもつのが特徴である。宿主は、ダニの分泌物や糞便に対してⅠ型過敏反応を発現することが有るため、この場合にはかなり強い痒みを呈する。
●皮膚疥癬症
猫:ネコ小穿孔ヒゼンダニ症は猫小穿孔ヒゼンダニ(Notoedres cati)が原因である。このダニは表皮中に寄生し、発育環は疥癬虫のそれと類似している。この疾患は伝染性が非常に高く、特に直接接触により猫、犬そしてヒト(ソウ痒性発疹を起す)へと感染する。最初は顔面と耳介に発現し、脱毛、紅斑、鱗屑化および肥厚したかひ(小穿孔ヘルメット)が特徴的である。その後全身に拡がる。
犬:犬の疥癬は猫疥癬の病原体と異なり、犬穿孔ヒゼンダニ(Sarcoptes scabiei var canis)に原因する激しい痒みを呈する疾患であり、主に犬に寄生するが、猫に認めることもある。感染動物に接触した人では、その約60%で腕や体幹に丘疹が認められる。人では4週間以内に自然消失する。皮膚の掻爬検査で検出不能な場合があるため、診断的治療としてイベルメクチンやスポットオン形式の滴下剤を使用することも少なくない。
●ニキビダニ症:犬に比較的よく見られるが、猫では稀な疾患である。犬にはDemodex canisが、猫にはDemodex catiが原因の寄生体である。犬では全ての個体で本病原体を保有しているとされる。仔犬や老犬での発症が多い。シーズーやフレンチブル、コッカースパニエル、マルチーズなどが好発犬種である。老齢では完治が困難である。
●ツメダニ症:ツメダニ症はCheyletiella spp.の感染によるが、犬ではCheyletiella yasguriの感染が多く、猫ではCheyletiella blakeiが主である(基本はこれらのダニは犬、猫どちらにも寄生・感染する)。
●犬のへパトゾーン症:日本では原虫であるHepatozoon canisの近縁種が病原体である。犬は感染マダニの経口摂取により感染が成立する。通常不顕性であるが、発熱、体重減少、食欲不振、貧血、抑うつ、眼鼻の分泌物、下痢、起立不能、骨膜性骨増殖が起こることがある。確定診断は、末梢血中のガモントの確認、または筋生検による虫体検出による。マダニ駆除が予防となるが、diminazene、imidocarb、tetracyclineの単独または併用療法が用いられるが、完全に有効な薬物はない。
●ツツガムシ病(Harvest mite infection):他のダニと異なり脚が3対の6本である(他のダニは4対の計8本)。Trombiculaに属し、犬猫では無症候性であるが、痒みや紅斑を呈する。以前、人では致死的病であった。
●ハウスダストマイト:「イエダニ=Ornithonyssus bacoti」と言いたいところだが、アレルギーやアトピーの原因となるダニは「コナヒョウダニ=Dermatophagoides farinae」がほとんどとされる。
●治療としては、特効薬のある疾患もあればそうとも言えないものもあるが、重大な基礎疾患がなければ治癒可能であるケースが多い。
●第一に重要な事は、ダニに対する予防法が有るため、これを病院で処方してもらうことである。その次に、ペットを草むらや藪に連れていかないことである。また、飼い主が山菜採りなどで山から帰宅した場合に、ダニを屋内に持ち込まないことも大切である。
●ペットの体表にダニを発見したら、無理やり取らずに病院へ行くのも必要である。

 「高がダニ、されどダニ」。甘く見ることなかれ!!!

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