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ペット豆知識No.39-救急疾患その1「犬の胃捻転」-MRTラジオ「ペット・ラジオ診察室」9月24日放送分

 これから数回に亘って、救急疾患について放送する予定である。交通事故や中毒、腸閉塞などの急性腹症、突発熱、排尿困難、突然の運動麻痺、癲癇など多々ある。まず最初に、猫や人では見られない「犬の胃捻転」について述べる。

●胃捻転の正式名称は、英語でGastric Dilatation-Volvulusと言い、和訳では胃拡張-
胃軸捻転症である。獣医師間では略してGDVと言う。通常、人や猫では遭遇しない疾患である。
●空気を伴う劇的な胃の拡張があり、急変して来院する。そして、その殆どが捻転を伴っている。90~360度捻転するため、放置すれば、その程度により数時間内で死亡する。
●大型で胸の狭くて深い体型の犬に見られ、秋田犬やグレートデン、ブラッドハウンド、コリー、ロットワイラー、アイリッシュセッターなどが好発犬種である。発生頻度は大型犬・超大型犬の約6%であり、大型犬の死亡原因の第2位との報告もある。生涯の発生率はロットワイラーで3.9%であり、グレートデンではなんと39%に上る。
●日本では上記の犬種の飼育が減少しているものの、高齢化により雑種犬や小型犬にも発生が見られる傾向にある。大型犬で比較的飼養頭数の多いゴールデンは要注意。
●GDVは急性の、死が切迫した疾患であり、緊急処置を要する。早期の発見と治療開始が救命の基本である。胃拡張は胃の膨張のためであり、通常は嚥下した空気と胃内容物で充満される。胃拡張は胃軸捻転によって悪化する場合がある。
●GDVは胃がその長軸で捻転した時に起こり、これが胃からの流出の完全な閉塞をもたらす。同時に起こる胃-食道吻合部(噴門)の閉塞は嘔吐やおくびによる胃内のガスや内容物(胃内液体)の蓄積減少を不可能にする。
●重度の胃拡張は門脈や後大静脈からの静脈環流を阻害し、低容量(循環血液量の低下)と内毒素性ショックを惹き起こす。二次的に起こる腹部臓器の鬱血は局所のアシドーシスとDIC(播種性血管内凝固症候群)を招く傾向にある。
●同時に脾臓はしばしば変位し、脾動静脈の閉塞や鬱血、脾腫、脾臓捻転、脾臓破裂を惹き起こす。
●胃壁の窒息性(酸欠性)壊死は、結局、二次的な胃の「捻じれ」を起こす。
●胃捻転の原因は良く解明されていないが、研究者間では、「胃捻転の原因の前提に胃拡張が存在する」と考える向きがある。事実、胃拡張の存在は、胃運動活力の低下を招いており、特に肝-胃靱帯の伸展が胃捻転の誘因と成り得る。
●解剖学的な素因、例えば大型犬や胸幅が細く胸の深い犬が発症し易い。小型犬や猫での発症は稀である。
●過度の嚥下した空気による胃の膨張(膨満)が胃軸捻転に先立って起こるかは良く分っていない。もし、この説が真実であれば、フードの一気喰いや水のがぶ呑みのような空気嚥下症(呑気症)が重要な要因であることを示唆する。
●GDVのリスクファクター(危険因子)をまとめると、高齢、血縁(一親等で家族性にこの疾患の病歴をもつ犬。親子・兄弟姉妹関係の犬。)、痩せた体型、床より高い位置にあるボール(容器)からの早喰い、1日1回の食餌、運動(特に食餌直後の散歩やダッシュは要注意で、食餌は散歩の後に与える)、食餌後のストレス、ひどい興奮性(激しい気性や怖がりで不安性の犬)などが挙げられている。
●ハッピーな性格の犬はGDVの発生率が明らかに低いとの報告がある。短頭種であるパグやミニチア・ダックス、ポメラニアン等は呑気が多く、その性格も気忙しいため、発生率が高くなる。
●症状は鼓腸を伴う腹囲膨満で、急性に発症する。嘔気を催すが、ガスや内容物の嘔吐を伴わない。その他に流涎、落ち着かない、呼吸困難などの症状がある。
●治療は第一に点滴(輸液)ルートを確保し、乳酸加リンゲル液を60~90ml/kg/時間で急速投与する。6%デキストラン液がベースで高張食塩水(7%)に調合した輸液剤を5ml/kgの量で投与し、その後に生理食塩水を20ml/kg/時間で点滴した方が、循環器系に好結果を及ぼす。高張食塩水は5~10分で効果が現われ、効果発現に1時間を要するリンゲル液などの晶質液と比べて優れる。
●血圧や心拍数、PCV(血球容積)、輸液量、尿量、血液ガス(酸-塩基平衡)、電解質測定などを頻繁に行う。結果に基づき、重炭酸やカリウムを投与する。特に低カリウム症は、輸液後通常見られることから、30~40mEqKCl/Lの濃度となるよう調整する。
●鎮痛剤や軽い麻酔剤で気管内挿管し、体格に合わせて胃チューブを入れ、まずは胃内に貯留したガスや内容物を除去し、胃内圧を減ずる。併せて胃洗浄も実施する。
●胃チューブ挿入の際の鎮静剤はブトルファノール(0.5mg/kg/)やオキシモルフィン(0.1mg/kg)を静脈内投与するか、ジアゼパム(0.1mg/kg)を緩徐に静脈内投与する。
●鎮静剤での胃チューブ挿入に抵抗を示すようであれば、ガス麻酔を併用する。
●胃捻転の程度が重度であれば、胃チューブの胃内への到達は不能であることがしばしばである。この場合には、やや太めの16G針で皮膚を通しての胃穿刺を行い減圧する。これにより、胃チューブの挿入が可能となる。胃穿刺時には超音波検査で脾臓の位置を確認し、脾臓損傷を避ける。
●その他の症状、例えばエンドトキシンショックではデキサメサゾン(10mg/kg)の静脈内投与等を行い、不整脈に関してはリドカイン(1~2mg/kg)の静脈内投与あるいは50~75μg/kg/minまでの持続点滴や、プロカインアミド(10mg/kg)の投与などを行う。
●数日は絶食とし、輸液やその他の栄養剤の投与で体液と栄養の管理を行う。
●再発例が多いため、胃壁を腹壁に固定する手術の実施を選択するか、検討する。
●GDVの死亡率は約15%との報告がある。胃の壊死を伴う例や胃切除、脾臓摘出術の症例での死亡率は30%を超える。
●胃壊死の存在は血漿中乳酸(塩)濃度の測定で予測可能である。6mmol/L以上で疑われる。
●GD/GDVを3年追跡したある報告では、11%が再発した。かつ、中間生存日数は胃腹壁固定術を実施したものが547日であるのに対して、手術をしなかった例では188日と短命であった。
●避妊手術と同時に予防的な胃腹壁固定術を実施した例では、ロットワイラーで2.2倍、グレートデンで29.6倍の死亡率低下を認めている。この成績から、好発犬種での予防的手術の有効性が裏付けられる。
●予防は、①自分の犬が好発の犬種であるか否かを知り、予防的な胃腹壁固定術も考慮に入れておく、②高・老齢犬では食餌の回数を増やし、1回の量を少なくする、③特にバカ喰い、食直後の散歩や運動は避ける、④ハッピーな性格となるように飼養環境に気配りする。

※※※ここでの内容と数値は主に、Textbook of Veterinary Internal medicine, 6th edition(2005,pp1319-1321)の成書を参考とした。GDVは救急疾患であり、大学病院と一般開業獣医との報告(成績)を一概に比較できない点がある。すなわち、報告や文献により死亡率や再発率などの数値に少なからぬ開きの存在することを考慮する必要がある。

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