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ペット豆知識No.43-救急疾患その3・内視鏡が出番の時-MRT「ペット・ラジオ診察室」10月22日放送分

 10月8日の放送で「交通事故」の話をしたが、その後11日までの4日間だけで「夜間救急」病院に3頭の犬が、本院に1頭の犬が交通事故で来院した。交通事故に限らないが、不思議と同じ病気が続くことが多々ある。気候が良くなると人の気も緩むのか、特に交通事故など飼い主の不注意による「事故」が多発する傾向に有るので、この時節要注意である。
 さて、「救急疾患」の第3弾の今回は「内視鏡」を選んだ。

●犬猫の診療において「胃カメラ」の守備範囲はヒトに比べたら実に狭い。内視鏡を設置していない動物病院の方が多い。当院でも内視鏡の使用頻度は月に1~3回程度である。
●しかし、内視鏡の有る無しで動物への負担は「天と地」ほど違う時がある。それは胃内異物である。内視鏡を用いれば非侵襲的な処置で済むが、無い場合には開腹(胃切開)手術で摘出しなければならない。当然ながらコストも高くなる。
●当院でよく見られる異物は釣り針、串(焼き鳥や団子の串)、妻楊枝、(小)石、釣り用鉛、コイン、おもちゃ(猫じゃらしなど)、アイスのバー、ビニール紐、縫い針などがある。
●ビニール紐、サロンパスなどは多くの場合、催吐処置で奏効するが、針や串などの尖ったものは食道や肺、肝穿孔などのリスクがあり、(催吐処置は)禁忌である。
●石などの比重の大きなものは、吐かせても吐き出せないことを知っておく必要がある。釣り針や串は把持用のカンシで掴めるが、石などは専用のバスケットタイプのもので異物をその中に納めて取り出す。異物の種類や形状によっては術者の熟練が要る。
●ヒトでは内視鏡が、なぜ頻用されるのか。それは食道癌や胃癌、大腸癌などの消化器系腫瘍が余りにも多いためである。病変を直接観察できるし、同時に組織検査のための生検も実施可能である。ヒトの部位別がん粗罹患率(2002年)男性が①胃癌、②大腸癌、③肺癌の順で、女性が①大腸癌、②乳癌、③胃癌の順で高い。ヒトの部位別がん死亡率男性が①肺癌、②胃癌、③大腸癌・肝臓癌の順で、女性は①大腸癌、②胃癌、③肺癌の順で多い。このように胃癌と大腸癌はヒトの医療では極めて重要な位置を占める疾患であり、内視鏡は無くてはならない医療機器の一つである。
犬猫では消化器系の腫瘍がヒトに比べて極めて少ない。犬猫の食道癌は全悪性腫瘍の0.05%以下胃癌は同じく1.0%以下腸癌も同じく1.0%以下である。猫の腸癌は小腸に多い。犬の大腸癌の88%は直腸に見られるるため、直腸検査などで診断可能なケースが少なくない。腹部触診が重要である。
●とは言え、犬猫でも胃炎や腸炎は頻繁に見られる。ある報告では、慢性嘔吐を呈する犬の35%に胃炎が存在し、病気の犬で嘔吐などが見られなかった(無症候性)犬の26~48%に胃炎があった、としている。
●また最近では、炎症性胃腸炎が増加傾向にある。これは胃腸の粘膜・粘膜下・平滑筋にリンパ球やプラズマ細胞(形質細胞)、好酸球などの炎症細胞が浸潤し、嘔吐や下痢を呈する、原因が不詳の疾患である。食物アレルギーやアトピーの関与が指摘されているが、原因の特定できない場合の方が多い。
●犬猫の内視鏡実施に際しては、動物の不動化のために全身麻酔が必須である。慢性の嘔吐や頑固な下痢を呈する個体のなかには、高齢や心臓病、腎臓病などの基礎疾患を持つ場合も少なくない。そのため、嘔吐・下痢、即、内視鏡の順を踏むことは少ない。悪性腫瘍の少ないことも重要なファクターであるが、胃炎を疑った場合、取り敢えずの対症療法で奏効するケースが殆どである。
●炎症性腸炎は、ミニチュアダックスやトイ・プードル、チワワなどの犬種で好発する傾向にある。糞便検査や血液検査、レントゲン撮影、念入りの腹部触診などで異常を見い出せない場合には、本症を疑い診断的治療に入る。ステロイド剤の投与やアレルギー食がそれである。糞便塗抹検査で炎症細胞が多見されるケースは、本症の疑いが高まる。さらに不安の残る症例では消化管のバリウム造影検査を実施し、異物や通過障害の有無を確認してから、治療開始するのが望ましい。

※犬猫、特に犬の場合には貯め食い・馬鹿食い(爆食)・盗食・咬み癖という習性・習癖が強い為、異物摂食の可能性が高い。①留守時にはケージに入れる、②危険なものや犬が遊んで口に入れるようなものを周りに置かない・・・などの注意が必要である。これも飼い主のペットに対する立派な愛情の一つである。

<附録>
●胃疾患の主な症状は嘔吐であるが、その期間によって急性嘔吐(1週間以内)と慢性嘔吐(1~2週間以上)に大別される。

<急性嘔吐の原因>
胃腸疾患:①食餌関連性(急激な食餌の変更、食物不耐性・アレルギーなど)、②急性胃腸炎(細菌性エンテロトキシンの摂取、異物(骨、植物、プラスチック、石、毛球)、化学的刺激物・毒素など)、③薬物誘発性(アスピリン、その他のNSAIDs、副腎皮質ホルモン、抗ガン剤、エリスロマイシンなど)、④ウイルス性腸炎(犬パルボウイルス、猫汎白血球減少症、犬ジステンパー等)、⑤細菌性感染(ヘリコバクターなど)、⑥寄生虫(Physalopteraフィサロプテラ属=線虫)、⑦胃あるいは腸管の閉塞(異物、腸捻転、腸重積、胃拡張-捻転症候群)
胃腸疾患に因らない嘔吐:①急性膵炎、②急性腎不全、③急性肝不全、④糖尿病性ケトアシドーシス、⑤子宮蓄膿症、⑥前立腺炎、⑦腹膜炎、⑧薬物誘発性(強心配糖体、麻酔剤・麻薬、抗ガン剤など)、⑨敗血症、⑩中枢神経異常(炎症、浮腫)、⑪運動障害(Motion sickness)、⑫前庭疾患

<慢性嘔吐の原因>
胃腸疾患:①食物関連性(食物不耐性、フードアレルギー)、②リンパ球性-プラズマ球性、好酸球性、肉芽腫性、Pythiosis、異物(毛球を含む)、寄生虫(Ollulanus、Physaloptera)、Reflux gastritisなどによる慢性胃炎、
③肥大性胃症(Hypertrophic gastropathy)、④胃腸の潰瘍、⑤胃の新生物、⑥胃からの内容物流出障害(異物、胃の新生物、胃ポリープ、肥大性胃症、幽門狭窄、慢性胃炎、肉芽腫(pythiosis)、⑦外部からの圧迫、⑧部分的な胃拡張-胃捻転)、⑨胃運動の障害、⑩(食道)裂孔ヘルニア、⑪横隔膜ヘルニア、⑫慢性大腸炎、⑬便秘症、⑭部分的遠位小腸の閉塞
胃腸疾患に因らない嘔吐:①腎不全、②肝疾患、③副腎皮質機能低下症、④猫の甲状腺機能亢進症、⑤猫の慢性膵炎、⑥猫の犬糸状虫(フィラリア)症、⑦中枢神経障害(炎症性、新生物、Visceral epilepsyなど)、⑧鉛中毒、⑨唾液腺症(Sialadenosis)

急性胃炎:急性胃炎は犬猫では普通に見られる疾患である。通常は軽度で自己限定性であるが、生検を実施して確定診断することはめったにない。急性胃炎の臨床的診断は、原因不明の急な嘔吐が起こり、24~48時間で自ら解消されることでなされる。

胃内異物:胃内異物は犬で一般的に最も良く見られる。これは犬の食の習癖と見境なく何でも噛んでしまう習性による。

胃・十二指腸潰瘍:①非ステロイド系消炎剤や副腎皮質ホルモンなどの薬物に原因するもの、②胃の新生物(リンパ腫、腺癌、平滑筋腫、平滑筋肉腫)や好酸球性胃腸炎、リンパ球性・プラズマ球性胃腸炎、Pythium insidiosum菌の浸潤性疾患、③肝疾患、腎不全、肥満細胞腫、脊髄疾患、副腎皮質機能低下症(アジソン病)、ガストリン産生性腫瘍(Zollinger-Ellison syndrome)、鉛中毒、グレイ・コリー病(Gray collies、Cyclic hematopoiesis)、ストレス(重篤疾患、大きな手術、低血圧・ショック、外傷、競走ソリ犬などの過度な運動)などの全身性疾患がリスクファクターとして挙げられる。

慢性胃炎:慢性胃炎は慢性的な、もしくは時々見られる嘔吐の、普通の原因である。慢性胃炎は組織学的特徴に基づいて分類されるが、それには炎症性浸潤細胞のタイプや、線維化や委縮、粘膜過形成の有無で決まる。組織学上、最もよく見られるものは、リンパ球性-プラズマ球性胃炎であり、それは多くの損傷に対する非特異的な組織反応である。

好酸性胃炎と肉芽腫:胃粘膜や粘膜下、平滑筋内に成熟した好酸球が散在性あるいは焦点的な浸潤を特徴とする。リンパ球やプラズマ細胞、好中球の浸潤も見られる。犬では①胃粘膜と粘膜下にビ慢性の好酸球浸潤が最もふつうに見られ、通常胃腸(大腸を含む)全体の好酸性炎症を伴う病態と、②胃壁外に及ぶ好酸性炎症や重度の血管炎を伴う単一もしくは多発性の肉芽腫性病変が起こるが、線維化は稀である。猫での好酸球性胃炎は通通常IBD(Inflammatory bowel disease=炎症性腸疾患)の徴候であり、犬の好酸性胃腸・大腸炎に類似している。稀に、猫の好酸性胃腸炎は好酸性症候群に関連する。犬での原因は不明だが、血中の好酸球増多や組織中の好酸球の増加はフードや寄生虫に対するアレルギーや免疫学的過敏症が示唆される。犬では好酸性胃炎の組織切片中にミクロフィラリアが検出されている。German shepherdでは好酸性肉芽腫に迷入した仔虫が存在したとの報告もある。

胃からの流出遮断:胃から十二指腸への流出遮断(閉鎖)は主に胃の洞や幽門部領域を含む胃壁や胃粘膜、胃内腔の異常により起こる。胃の流出部への外部からの圧迫が原因することは殆どない。通常見られる原因を以下に挙げる。①異物の幽門での閉塞、②慢性肥大性幽門胃病(Chronic hypertrophic pyloric gastropathy=CHPG)、中高齢の小型犬に見られる良性の疾患。③幽門狭窄は幽門の輪状筋線維の肥大である。先天的な幽門狭窄は若い犬猫に起こる。後天性の筋性幽門狭窄は老齢の動物で見られ、CHGPの一要因である。④慢性胃炎、特に好酸性胃炎や好酸性肉芽腫が幽門洞や幽門部に及ぶと流出遮断が起こる。⑤Pythiosis やヒストプラズマ症に原因する菌性胃炎の症候として形成された肉芽が遮断を起す。⑥幽門部の胃潰瘍、⑦胃の新生物、特に腺癌、⑧胃拡張-捻転症候群は急性の流出遮断を起す専らの原因、⑨外部からの圧迫に因る流出遮断は、肝炎や膵炎、膿瘍、附属リンパ節の顕著な腫大、胃の変位を伴う横隔膜ヘルニアによる。

胃運動の障害

肥大性胃症

胃の新生物:犬の悪性胃腫瘍は腺癌が主で、猫ではリンパ腫(FeLV陰性)が多く、平滑筋肉腫と線維肉腫がある。

胃拡張-捻転症候群

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