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ペット豆知識No.45-救急疾患4・輸血・その1、犬猫の輸血型について-MRT「ペット・ラジオ診察室」11月5日放送分

 「輸血」というと、交通事故や手術時(術前・術中輸液)の輸液が真っ先に想像されるものの、実際の犬猫の臨床ではさほど多くない。重度の貧血で輸血が必要な疾患は、自己免疫介在性溶血性貧血、イヌのバベシア症や猫のヘモバルトネラ症、末期腎不全、末期癌に随伴する腹腔内出血などに限定される。今回は輸血の適否を決める血液型について述べる

<はじめに>
●人間同様に「どれでもこれでも」の血液は輸血できない。不適合な輸血は貧血をさらに悪化させるばかりでなく、死の輸血反応を招く。
●輸血による副作用を避けるには、血液型が適合するかしないかを、試験管内での適合試験を実施する必要がある。
●適合試験には、血球型と血清型の両者を調べる必要がある。

<犬の血液型>
●犬の血液型(DEA=Dog Erythrocyte Antigen=犬赤血球抗原)にはDEA1~13の13型がある。特にEDA1にある1.1、1.2、1.3の3つのサブタイプの中の、1.1が重要である。このDEA1.1が陰性であれば、ドナー(供血犬)として供与可能である。※このDEAは当然ながら、血液型の表現である。
●文献の報告ではDEA1.1陰性が30~55%、DEA1.1陽性が45~70%である。国や地域、品種による血液型の頻度が異なるが、猫ほど極端ではない
●ドナー犬のDEA1.1が陰性であれば、レシピエント(受血犬)はDEA1.1が陰性、陽性のいずれであっても輸血が可能である。
DEA1.1陰性の犬(レシピエント)にDEA1.1陽性の犬(ドナー)の血液を輸血すると、犬の血中にはない自然抗体(同種異系抗体)が産生され、再度DEA1.1陽性犬が輸血されると重篤な輸血反応を招く
犬では猫と異なり、自然発生異系抗体が存在しないため、血液型の不適合で猫のような重篤な輸血反応を呈する可能性は低いとされる。これは血液交差試験の実施が不可能な緊急の場合(たとえば術中の大量出血など)には、血液適合検査をしなくても輸血する価値があることを示唆している

<猫の血液型>
●猫の血液(血球)型にはA、B、AB型の3つがある。猫ABシステムとして知られる。A型(A/A、A/B)、B型(B/B)、AB型の3種類の対立遺伝子からなる。A型はB型に対して完全優性である。
●しかし、AB型は第3の対立遺伝子として遺伝するため、AB型同士の交配でのみAB型の子猫が誕生する。猫のAB型は極めて稀な血液型である。A型が59~100%と多い。特に、シャム、バーミーズ、トンキニーズ、ロシアンブルーでは100%との報告がある。アメリカン・ショートヘアーでは90%がA型、10%がB型とされる。日本国内の雑種猫でもそのほとんどがA型との報告がある
●猫では犬と違って、自然発生同種異系抗体を有しているため、初回輸血でも血液型の不適合によって死に至らしめる重篤な輸血反応を呈する
●輸血は血液(血球)型を検査して、同型を輸血するのが原則であるが、AB型の猫に同型の猫がどうしても見つからない場合にはA型の血液を輸血することが可能である。

<血液適合検査>
●血液適合検査は、上記の「血液型判定」と「交差適合性試験」の両者がある。
●これら両者は互いにその代わりになるため、どちらか一方を行えばよいというものではない。その理由は、現在までに知られている犬の血液型以外の血液が存在する可能性も指摘されていることや、バベシア症や自己免疫介在性溶血性貧血のような自己の赤血球に対して抗体が産生されている病態下での、安易な輸血は避けなければならない。

<交差適合性試験>
●交差適合性試験には主試験(主交差適合性試験)と副試験(副交差適合性試験)がある。主試験はドナー赤血球に対するレシピエント血漿中の同種異系抗体を検査するものである。副試験はその反対で、レシピエント赤血球に対するドナー血漿中の同種異系抗体を調べるが、オナー血漿は希釈されるのでその重要性は低い。
●ドナーとレシペエント、それぞれの全血(凝固阻止された普通に言う血液)について凝集の有無を見る自己凝集試験も実施する。特に自己免疫介在性溶血性貧血やバベシア症、ヘモバルトネラ症では重要である。

<副作用=輸血反応>
●副作用の輸血反応には急性輸血反応と遅延性の反応がある。
●急性輸血反応では、輸血された犬の赤血球の半減期は約21日とされるが、不適合輸血ではその半減期は12時間と極端に短い。溶血の場合、ヘモグロビン血症とヘモグロビン尿が見られる。非溶血性反応では、アナフィラキシー・ショックや蕁麻疹などが見られる。
●遅延型反応では、血小板減少や溶血などが、輸血後数日で見られる。発熱や嘔吐などの頻度も高い。輸血の最中はもちろん、輸血後も数日はそのモニターが必須である。

<新生仔同種溶血>
●B型の母猫から生まれたA型またはAB型の仔猫は母乳によって抗A抗体が新生仔溶血現象を惹き起こし、生後1~2日目に突然死することがある。B型の猫は非常に強い抗A抗体を保有していることに因る。(※A型母猫は問題ない。)このため、B型の雌とA型の雄の交配を避けることも重要である。この組み合わせで生まれた仔猫には生後16時間、母猫と離して母乳を与えず、人工乳で哺乳する。
●犬ではDEA1.1陽性の雄と陰性の雌の交配を避ける。これも猫と同様に、生後の母乳の摂食で同種溶血の可能性が存在するためである。この組み合わせで生まれた仔犬にも人工哺乳する。

<最後に>
●輸血は貧血や大量出血で苦しむ動物を救命するには、この上ない「贈り物」である。間違っても不適合による輸血反応で、救命どころか、その反対に死を招くものであってはならない。これを肝に銘じて治療に当るのが、われわれ獣医師の責務である。
●飼い主にとって重要なことを一つ。自分のペットが輸血を必要とした時、いざ、ドナーを探そうとしてもなかなか見つからないのが、常である。ドナーの条件としては、猫では①体重が4kg以上、②性格が大人しく健康であること、③屋内飼育でワクチンを完全に接種していること、④猫白血病や猫エイズ、ヘモバルトネラが陰性であることなどがある。犬ではフィラリアやバベシアが陰性であることも重要である。いわんや、老齢や腎不全などの持病もちは論外である。
ペットの生涯で輸血が必要となることも稀ではないことを認識し、愛するペットのための、猫友・犬友をつくっておくことをお勧めする

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