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ペット豆知識No.47-犬猫の歩行(歩様)異常・その4「椎間板ヘルニア」-MRT「ペット・ラジオ診察室」11月19日放送分

 歩行異常シリーズ4回目の今回は「椎間板ヘルニア」である。この疾患は登録頭数ナンバーワン犬種であるミニチュア・ダックスに非常に多い病気である。そのため、我々獣医師だけでなく、飼い主さんもミニチュア・ダックスの歩行異常と言えば何はともあれ椎間板ヘルニアを疑う。その他、コーギー、ビーグルなどが多発犬種とされるが、他犬種でも少なくない。

 椎間板ヘルニアの症状としては、足がふらつく、後肢の甲が地面に着く(ナックリングと言う)、足が立たなくなる、痛みにより吠える、といったものがあり、さらに重症なものでは自力で排尿できない、深部痛覚の消失といった症状が加わる。椎間板ヘルニアは重症度により症状が大きく異なるため、その症状はⅠ~Ⅴまでに分類される。
 Ⅰ:背部痛のみで歩行は正常
 Ⅱ:ふらふらするが歩行可能
 Ⅲ:歩行不可能
 Ⅳ:排尿不能
 Ⅴ:深部痛覚の喪失
  
これらの症状が突然現れるため「このまま改善されないのではないか」と心配そうな顔で来院される方が多い。
 ・椎間板ヘルニアは改善する疾患なのだろうか?
 ・治療は発症から時間が経過していても効果があるのだろうか?
 ・手術はどのような場合に必要となるのだろうか?
 ・いったん突出した椎間板は一生残るのだろうか?

 ●まず、椎間板ヘルニアの治療としてはステロイドの投与あるいは外科的に手術を行うのだが、どちらにせよ早期の治療が望まれる具体的にはステロイド投与は8時間以内、手術は48時間以内(72時間との説も有り)が目安となる。手術に踏み切る重症度は獣医師の考え方にもよるが、当病院ではⅣ度以上で手術実施の是非を考える。なぜなら、Ⅲ度以下のほぼすべての犬が手術を行わなくとも見事に歩行できるようになるからである。

 ●そして、最も大切なことは発症後1週間後から行うリハビリである。発症後1週間は絶対安静が必須だが、その後は暇さえあればリハビリの日々が始まる。長期歩行しないと筋肉が落ち(筋肉の廃用性委縮)、さらに歩行困難となる。筋肉が落ちる前に再び歩き方を覚えさせることが大切である。当病院ではタスキ様の布をつかって腰を吊り地面に接着する感覚を何度も何度も味わせたり、バスタブにお湯を張り遊泳させたり、さらに飼い主さん自身の手で足を曲げ伸ばしするといった方法をとっている。

 ●早期治療やリハビリを怠り時間が経過して治療を行っても効果は出にくく、一生歩行困難となってしまうまさに時間との勝負である

 治療の成功率(%)と回復に要する期間(週)は以下のようになる。

 内科療法          外科療法
 Ⅰ度 100% 3週       Ⅰ度 100%
 Ⅱ度  84% 6週       Ⅱ度 100%
 Ⅲ度 100% 9週       Ⅲ度  95% 1週
 Ⅳ度  50% 12週       Ⅳ度  90% 2.5週
 Ⅴ度  7%         Ⅴ度  50% (48時間以内の手術)2週 
                  6% (48時間以上経過しての手術)

 また、内科的治療ではステロイドの中でもメチルプレドニゾロンにおける効果が証明されている。これも早期投与が必要で、8時間以内に初回投与を行い、その後重症度により持続的に投与する。大切なのは初回投与を8時間以内に行うことで、8時間以上では効果が無くなるばかりか脊髄への損傷を悪化させる可能性がある、と言われている。ステロイドは椎間板突出後に生じる虚血、低酸素、神経細胞の壊死を防ぐ効果があるが、これらの効果が時間の経過とともに減少する原因は、組織の損傷で血流が阻害されるためと考えられる。
 ちなみに、ステロイドには消化器障害、易感染性(病気にかかり易くなる)、肝障害、多飲、多食などの副作用があるが、ある文献ではデキサメサゾンよりメチルプレドニゾロンの方が副作用(尿路感染症、下痢)が少ないとされている

 ●それからもう一つ大切なことは、予防である。同じ犬が何度も椎間板ヘルニアを発症することがよくある。椎間板ヘルニアは、同じ箇所で再発することはもちろん、他の箇所でも起こりうるからである。小太りの犬が階段を上がる、ソファーに飛び乗るといった行動は禁忌で、太っている犬がダイエットの為に急激に運動量を増やすことも避けたい。運動は短い時間で回数を多くするべきである。

 ●人において突出した椎間板物質は自然に吸収される(全体あるいは一部のみ)ことは多いようだが、犬でも過去にはあった椎間板が後に撮ったレントゲン写真ではすっかり吸収され、姿が無いことがある。つまり、自然に吸収されることがあるのだ。ただし、他の部位も椎間板ヘルニア予備軍であることをお忘れなく。
 
 椎間板ヘルニアについては以前にも詳しく述べているため、詳しくはここで

文責:獣医師 棚多 瞳

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