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ペット豆知識No.50-救急疾患6-角膜損傷・角膜炎・角膜潰瘍-MRT「ペット・ラジオ診察室」-12月10日放送分

 犬や猫の角膜や結膜、眼瞼の異常は日常茶飯事に遭遇する疾患であり、動物であるが故に深刻な事態に発展しかねない、臨床上、重要な病気である。すなわち、最初の病態は軽度にもかかわらず、眼を掻いたり擦ったりすることで、最悪の場合、失明することも稀ではない。今回はその中でも最も重要な角膜疾患について述べる。

角膜の解剖:角膜の厚さは0.5~0.8mmの透明な組織で、強度の屈折を有し、上皮実質デスメ膜内皮の4層からなる。獣医眼科診療の約25%を占めるとされる。※人では、角膜上皮、前境界板(ボウマン膜)、角膜固有層(実質)、後境界板(デスメ膜)、角膜内皮の5層である。
角膜上皮:厚さ50μmの重層扁平上皮からなる。扁平上皮細胞は5~6層に配列する。上皮細胞内には、細糸やグリコーゲンなどが含有され、隣接する細胞は接着斑(デスモゾーム)で結合し、その細胞膜は嵌合する。最表層の上皮細胞の自由表面には、多数の微細なヒダ状の隆起や微絨毛がみられる。角膜の表面は涙液で被われるが、これらの微細構造が湿潤状態を保つのに役立つ。また上皮内には、自由神経終末が存在するため、角膜の知覚は極めて鋭敏である。
角膜実質(固有層):角膜の主質で、角膜全体の厚さの約90%を占める。組織学的には密線維性結合組織からなり、厚さ約2μの層板が表面に平衡に規則正しく重なる。層板の間には、グリコサミノグリカン、とくにコンドロイチン硫酸、ケラト硫酸、ヒアルロン酸などで基質を構成し、固有層は一定の水和状態にある。角膜の透明性を保つ
デスメ膜(Descemet):角膜内皮細胞の基底膜であり、角膜内皮細胞により生成される均質・無構造の膜である。厚さは5~8μm。
●角膜内皮:厚さ5μmの内皮細胞からなり、人では片眼で25億個も数える。再生能力が無い。役目は角膜の含水量を一定に保ち、角膜の透明性の維持や酸素・栄養の供給である。

角膜損傷:多くは角膜上皮の表面(表層)がキズつくこと。例えば、人ではコンタクトレンズによるものなどである。犬猫では、喧嘩やゴミ、結膜炎、眼瞼炎、睫毛、角膜ジストロフィー等に因る。
※結膜炎は猫伝染性鼻気管炎や猫カリシウイルス感染症、猫クラミジア感染症などがある。
睫毛(しょうもうと読む)は逆さマツゲのことである。乱生(らんせい=内眼角の皮膚にある毛)、重生(じゅうせい=眼瞼の縁から生える)、異所性(眼瞼結膜・眼球結膜より生える)、迷入性(ブルドッグなどで下眼瞼下の鼻の脇に生えている毛が角膜を刺激する)がある。
※角膜ジストロフィーは角膜にコレステロールやカルシウムが沈着する。多くは両側(眼)性に起こる。進行すると角膜炎や角膜潰瘍に伸展する。

角膜炎:角膜損傷で角膜にキズがつき、そこに細菌や真菌の感染が起こると角膜炎に進展する

角膜潰瘍:潰瘍性角膜炎ともいう。角膜潰瘍は5段階にグレード分類(Miller)される。
Ⅰ度基底層まで達した上皮欠損で、角膜実質は侵されないが、フルオレセインに染まる。
Ⅱ度上皮細胞の接着がみられない上皮細胞の欠損で、フルオレセインは上皮がめくれている下の部位にも侵入する。
Ⅲ度は進行性でない角膜実質潰瘍で、その深さが角膜の3分の1以下でおさまっている。
Ⅳ度は進行性および深層性潰瘍で、潰瘍の深さが角膜の3分の2以上侵されているもの、あるいは角膜実質全体が損傷・破綻しデスメ膜が飛び出す(=デスメ瘤という)。フルオレセインで染色するとデスメ膜は染色されないので、ドーナツ状の染色となる。
Ⅴ度は病変は角膜内皮を破綻させ角膜全層を穿孔する。角膜穿孔および虹彩脱出を呈する。

動物での問題点:犬猫では角膜表層(上皮)の小さな傷(損傷)でも前肢で掻いたり、直接物で擦ったりするために病変が重度化する
●これは角膜に分布する三叉神経の刺激で起こる激しい痛みに因る。角膜の神経線維は辺縁から固有層に入り、上皮下で神経叢をつくり、ここから知覚線維が上皮内に侵入し、分布する
人では痛みを我慢するか、即刻病院へ向かうが、犬猫ではそうはいかないのが現実である。そのため、そのまま放置すれば、通常は悪化の一途を辿(たど)る。

症状は痛み(疼痛)によるウインク(瞬きや眼瞼痙攣)、羞明感流涙充血(赤目)などがある。

治療
<その1>上記の症状を発見したら、掻いたり擦ったりを避けるため、自宅にエリザベスカラーがあればすぐに装着する。なければ可能な限り、そのような行為をさせないよう配慮する
<その2>なるべく早く病院へ。
<その3>内科的治療法
Ⅰ度では原因の除去と抗菌点眼薬、抗コラゲナーゼ剤、ヒアルロン酸ナトリウム点眼液、抗生物質眼軟膏などを処方する。この場合、上皮の再生は速やかであるが、治癒には約1週間かかる。
Ⅱ度Ⅰ度の場合の治療に準ずるが、外科的治療を選択したほうが、治癒が早い。
点眼などの回数を増やす。Ⅳ度への進行やぶどう膜炎の併発に注意する。
Ⅳ度一般的には外科的治療が第一選択となる。
Ⅴ度局所はもちろん全身療法も必要である。外科療法への移行を見極めることが重要である。
<その4>外科的(手術)療法:軽度であれば、眼瞼縫合のみで奏効するケースも少なくない。重度になれば、瞬膜フラップや結膜フラップ術を実施する。

※※パグやシーズー、チワワ、ヨークシャー・テリアなどの短頭種は舌が直接角膜に届く(触れる)こともある。この場合、点眼療法は無意味であり、直接の物理的刺激によって悪化する一方である。舌が角膜に届く現場を目撃したら、迷うことなく手術を行う。

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