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ペット豆知識No.58-犬の嗅覚-MRT「ペット・ラジオ診察室」2010年2月4日放送分

今回は難しい病気の説明はお休みし、少し視点を変えて「嗅覚」についてである。

●周知のとおりイヌの嗅覚は非常に優れている。では、具体的にはヒトと比べてどのくらい優れているのか?
 イヌの鼻の感度は普通のヒトの100万~1億倍といわれている。

●何故ヒトとイヌでにおいの感度にそれ程までの大きな差があるのか?
 それにはまず、においがどのようにして感知されるのかを知る必要がある。
 ①におい物質は空気とともに鼻腔に吸い込まれる。
 ②鼻腔内部は粘膜で覆われ、常に粘液が存在する。その粘液ににおい物質が溶ける。 
 ③嗅上皮に存在する嗅細胞が粘液の中に溶けたにおいの物質をとらえる。
 ④嗅細胞はにおい物質の刺激を受けるとその刺激を脳へ伝え、においが感知される。

 ヒトとイヌの大きな違いはこの嗅細胞の感度ではなくにおいを受け取る場所(嗅上皮)の面積が広くてにおい受容器(嗅細胞)の数も多いのでにおい受容の効率が良いのである。
 具体的には、嗅上皮の面積はヒトで約4cm²、ネコで約21cm²、イヌでは約18~150cm²、特にシェパードでは170cm²にもなるという。イヌでは約40倍、ネコでも鼻が小さいにも関わらず約5倍の面積がある。また、嗅細胞の数はヒトで500万程度であるのに対し、イヌでは約2億存在する。さらに詳しく述べると、においは嗅細胞の繊毛(嗅毛)によって受容されており、嗅細胞1個当たりの繊毛(嗅毛)の数もイヌの方が多い。逆に言うと、嗅覚において、頭の小さいネコよりも劣るヒトの嗅覚がかなり鈍感と言うこともできる。

イヌの嗅覚にも得意・不得意があるのだろうか?どのようなにおいに感度が良いのだろうか?
 イヌはにおいの種類によりその感度が大きく異なる。例えば、ヒトでは強烈なにおいを感じる「にんにく」だが、イヌはヒトの2000倍ほどの感度である。その他、ヒトに比べて犬の嗅覚はスミレで3000倍、酪酸で100倍、イオノン(ミカン科の低木に含まれる)で1000~1万倍優れているという。
 イヌの得意(感度の良い)なにおいとしては、「脂肪酸」がある。この「脂肪酸」とは、動物臭のことで分かりやすく言うと、汗や靴下のにおいである。脂肪酸の場合、イヌの感度はヒトの1億倍も優れている。そのため、イヌは警察犬や麻薬犬として貢献することができる。
 また、最近ではイヌに癌を見つける能力があるのではないか?という研究も進んでいる。実際、癌患者の患部をしつこく付きまとっていたイヌが、手術後気にしなくなったという例もある。加えて、尿で膀胱癌や腎臓癌、息で肺癌を見つけ出そう、という試みも始まっている。近い将来、愛犬によって癌を見つけてもらえる日がやってくるかもしれない。

イヌにもにおいの好みがあるのか?
 色や味と違い、におい物質の種類は約40万種もある。その中で、イヌにもヒトと同じくにおいの好みがある。
 ヒトで良いにおいと感じるスミレやバラのにおいはイヌも良いにおいと感じるようである。しかし一方で、オレンジやジャスミンといったヒトでは良い匂いがイヌには不快に感じる。また逆に、汗様のにおいはヒトでは煙たがられ今や空前の消臭ブームであるが、イヌには案外良いにおいとして感じるようだ。靴下や汗まみれの服をクンクンにおうのは、「臭いにおいがするぞ!」と思っているわけではないのである。ご安心を…。

お尻を嗅ぎ合うのはなぜ?
 これには大きく2つの理由がある。
 1つはアポクリン腺が肛門周囲に多いからである。汗腺には二種類あり、アポクリン腺とエックリン腺とがある。アポクリン腺の分泌物はエックリン腺の汗に比べ、脂質・糖質やタンパク質など有機成分を多く含み粘調である。アポクリン腺からの分泌物自体は無臭なのだが、細菌などで分解されるとにおいがする。つまりにおいの元となる。イヌやネコでは全身にこのアポクリン腺が分布しているのだが、特に多いのが肛門周囲、耳や口、陰部である。このアポクリン腺が多いため、イヌやネコでは体臭が強いのである。
 もう1つの理由は肛門嚢の内溶液である。この肛門嚢は肛門の4時・8時の位置にあり、強烈なにおいのする液体(個体によっては固体)が溜まっている。
 イヌやネコではにおいがコミュニケーションに重要な役割を果たしている。ヒトにとっては体臭や臭い液体として嫌悪感を抱かせるだけだが、これにより個体識別ができ、名刺代わりとなっている。
 
 最後に病気について一言。この肛門嚢の内溶液は定期的に(2週間~1ヶ月)排泄させる必要がある。放っておくと肛門嚢が破れることがあるのだ。「肛門嚢絞り」にはコツがある。始めは苦戦することが多いため、病院で確実な方法を学ぼう。
 
 文責:獣医師 棚多 瞳

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