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2011年1月6日(木)のMRT「ペット・ラジオ診察室」のテーマは「犬猫の皮膚の肥満細胞腫」でした。

 今回は「犬猫の皮膚に見られる肥満細胞腫」という腫瘍について述べる。

<はじめに>
●肥満細胞腫は人ではめずらしいが、犬や猫では一般的によく見られる腫瘍である。犬では皮膚の腫瘍の中で最も多く、皮膚の腫瘍全体の16~21%を占める。猫では皮膚の腫瘍の中で2番目に多く、皮膚腫瘍全体の17.4%を占める
●内臓の肥満細胞腫もあるが、犬ではそのほとんどは皮膚に発生した肥満細胞腫の転移として生じる。
●一方、猫では犬より内臓型肥満細胞腫(内臓が原発)が多く、内臓型は悪性度が高い。
内臓型肥満細胞腫は脾臓や腸に発生し、脾臓の肥満細胞腫は広範に転移することが多いが脾摘により平均寿命12~19ヶ月と比較的長期に生存が可能となる。また、腸の肥満細胞腫は広範に転移しほとんどのケースで診断後すぐに死亡する。
●このように、肥満細胞腫は皮膚型と内臓型で悪性度と予後が異なる。今回は日頃飼い主さんが発見しやすい皮膚に生ずる肥満細胞腫について述べる。皮膚にできる肥満細胞腫は犬と猫で特徴が大きく異なる為、分けて記述する。

<犬>
●犬では悪性度の高いものがある
●見た目に特徴があるのか?
①孤立性の場合が多い。(多発性は11~14%。)
②グレード1では、直径1~4cm、膨隆した脱毛病変として観察されることが多く、ゆっくり大きくなる。
③グレード3では、急激に大きくなる、自潰し周囲の組織は発赤・浮腫を起こす、腫瘍に付随する小結節、などが認められる。
④皮下にできる肥満細胞腫は触診上、脂肪腫と誤診されやすい。
⑤肥満細胞腫は顆粒を持ち、脱顆粒することで顆粒に含まれるヘパリンやヒスタミンを含む炎症性媒介物質が放出される。そのため、実際にはそうではないが、腫瘍が大きくなったり小さくなったりするように感じることがある。
⑥肥満細胞腫は胴にできることが最も多い。ついで、全体の4分の1は四肢に発生する。

※※肥満細胞腫は「大いなる詐欺師」と表現されるくらい他の皮膚や腫瘍性病変に類似していることが多々ある。臨床症状のみで判断しないことが肝心である。

他の腫瘍と同様、早期診断・早期治療が重要となる。
①肥満細胞腫は穿刺吸引細胞診(fine needle aspiration cytology)により診断できる。肥満細胞は染色液で染まる顆粒を持つ特徴的な細胞であるため(まれに顆粒が染色されない場合がある)、穿刺吸引細胞診で迅速かつ容易に診断できる。穿刺吸引細胞診は針で細胞を採取して行う検査で、簡単に行うことができるのが利点である。
②肥満細胞腫と診断されたら、なるべく早い外科的切除が望まれる。ただし、肥満細胞腫の場合には、2~3cmのサージカルマージンをとる必要がある。つまり腫瘤のみならず2~3cm余分に切除を行うのである。そのため、腫瘍の発生した場所によっては断脚などが必要となることもある。
③外科的切除が不可能な場合、放射線治療と併用することもある。
④化学療法は外科的切除や放射線治療に比べ、有効性が低い。

予後の予測には組織検査によるグレーディングが重要となる。グレードは1~3まであり、グレード1が最も悪性度が低く、グレード3が最も悪性度が高い。グレード1では80~90%が長期生存しており、転移率は10%以下である。一方、悪性度の高いグレード3では1年以内に亡くなるケースが多く、転移率は55~96%である。

<猫>
●皮膚型の肥満細胞腫は、犬と異なりそのほとんどが良性の経過をたどる。また、自然と消失することもある。
●典型的なものは、孤立性、盛り上がっている、固い、無毛、直径0.5~3cmという特徴を持つ。よく見られる場所は、頭(耳介周囲や耳の根元に多い)や頸部である。
●治療は外科的切除により行うが、多くの場合、広いマージンをとらなくて良い。また、自然と消失することもあるため、経過観察を行うこともある
●先に述べたように、内臓型肥満細胞腫は悪性度が高い。

<まとめ>
※※皮膚型肥満細胞腫は犬と猫で治療法が大きく異なる。犬では悪性度が高いこともあるため、早期診断・早期治療(外科手術による拡大切除)が予後の決め手となる。穿刺吸引細胞診は簡単に実施でき、容易に診断できるため、とりあえず調べてみることが大切である。

文責:棚多 瞳

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