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5月5日(木)のMRT「ペット・ラジオ診察室」のテーマは「犬猫の不明熱」です。その2・「猫の不明熱」。

猫の不明熱Web Supplement:
Fever of Unknown Origin in Cats
Julie Flood( Compendium: Continuing Education for Veterinarians® | January 2009 | CompendiumVet.com)

猫の不明熱(FUO)の原因を特定することは非常に難しい。犬の不明熱と同 様にフラストレーションがたまるが,最終的にほとんどの場合で不明熱の原因を特定することができる。本稿では、猫の不明熱に関するいくつかの更新された情報と、猫の不明熱を診断する際に将来見込みのある技術について述べる。
鑑別診断
猫の不明熱の最も多い鑑別診断は、感染症、腫瘍、免疫介在性疾患と非感染性炎症性疾患である。 以下の例は、猫の発熱の原因として知られている。:
■感染症
≫局所細菌感染(例. 胸膜炎、骨髄炎、歯周膿瘍、子宮炎)
≫腎盂腎炎(腎臓は、オカルト感染の一般的な発生部位である)
≫一般的な抗生物質に感受性の低い臓器の感染(例. マイコバクテリウムspp、マイコプラズマspp、L型菌)
■ウイルス感染
≫FIP
≫FIV
≫FeLV
≫猫カリシウイルス
■全身性真菌症
≫ヒストプラズマ症
≫ブラストミセス症
≫コクシジオイデス症
■原虫症、リッケチア症
■寄生虫感染症
≫ヘモバルトネラ・フェリス
≫トキソプラズマ・ゴンディ
≫異所性寄生虫迷入
≫犬糸状虫による肺塞栓症
■腫瘍
≫リンパ腫
≫骨髄増殖性疾患
≫肺腺癌
■非感染性炎症疾患
≫胆管肝炎
≫IBD
≫膵炎
≫汎脂肪織炎
■薬物
≫テトラサイクリン
≫スルホンアミド
≫ペニシリン
≫レバミゾール
免疫介在性疾患は、猫の不明熱の原因となることは稀である。しかし、これらの疾患は猫に関して充分な記述がなく、その正確な発生率は不明である。
 様々な感染症により猫には眼変化が起こるため、不明熱の猫では、繰り返し眼底検査を行う必要がある(例. FIP、FIV、FeLV、猫鼻気管炎、猫バルトネラ感染症、野兎病、トキソプラズマ症、全身性真菌症)。
眼変化がなくても、これらの疾患への感染を除外はできない。

臨床アプローチ
■FeLVとFIVの検査
FeLV抗原とFIV抗体検査は、すべての発熱のみられる猫に実施されるべきである。
FeLVのELISA検査とFeLVの免疫クロマトグラフィー分析試験は、迅速で、信頼できるスクリーニング検査であり、どんな年齢の猫からでも、血清もしくは血漿を用いて検査できる。
FeLV検査で陽性であれば、通常結果はウイルス血症と相関するが、技術的または人為的誤りは偽陽性となることがある; したがって、陽性の結果を確認するために、すぐに再検査(同じ検査で)を行うべきである。
陽性の猫は、一過性と持続性のウイルス血症を区別するため、約10週後に再検査を行うべきである。
2回目の陽性結果は、通常持続性のウイルス血症を示す。新鮮血または骨髄の単層塗抹の直接蛍光抗体法も、予後予測の目的や陽性結果の確認のために使用できる。
ELISA抗体検査でFIV陽性の結果がでた猫は、診断の確認のため、ウエスタンブロットによって再検査するべきである。ELISA抗体検査のFIV陽性の結果は、5ヵ月齢以上(母猫の移行抗体は、最大生後16週間目まで仔猫に認められることがある)のワクチン未接種猫では、感染を確定するものである。
しかし、必ずしもウイルスにより引き起こされる疾患と関するとは限らない。
FeLVとFIV両方陽性の場合は、その他の日和見感染の診断検査の実施が望ましい。
残念なことに、ウエスタンブロット検査は、ウイルス感染と予防接種を区別することはできない。役立ちそうな新たなPCR検査は、近々利用可能になる。
■細胞学
サイトークスゾーン感染症の猫は時折、貧血や黄疸症状を示す前に、発熱、食欲不振、無気力を呈するため血液塗抹は非常に重要である。
貧血の猫は、新鮮血液塗抹とPCR検査により貧血の猫はマイコプラズマ感染症を評価する必要がある。しかしながら、マイコプラズマ感染症の血液塗抹での陰性結果のうち50%は、偽陰性である。
下顎リンパ節の腫脹と発熱または肺炎の徴候を示す猫は、腫脹のみられるリンパ節のFNAを実施する必要がある。ペスト菌の風土病がみられる地域では、サンプル内の特徴的な双極染色性の桿菌の評価をする。
■血清学的検査
検査ではFIPウイルスと猫コロナウイルス(FCoV)を区別できないため、血清サンプルはFIPが疑われる場合にだけ提出する。
リンパ球減少症、好中球増多症(左方移動の有無にかかわらず)、ポリクローナル高ガンマグロブリン血症、滲出液または血清のアルブミン:グロブリン比<0.4は、FIP感染症を示唆する。
血漿中または浸出液中のα1–酸性糖タンパク質(AGP:急性期反応蛋白の1つ)の測定が役立つことがある;このタンパク質は、FIP患者で中程度に上昇する(AGP >1500 μg/mL)が、伝染性疾患の非特異的なマーカーである。AGPは、FIPを他の非炎症性の疾患(例. 心筋症や腫瘍)と鑑別するのに役立つ。

現在、FIPの診断検査は一つも無く、組織や浸出液サンプルの病理組織検査と抗原の検出が、いまだに最も優れた検査である。猫コロナウイルスに感染したマクロファージの抗原染色の陽性結果は、FIPの診断に役立つが、陰性結果はFIPを除外できない。
RT-PCR検査法が、FIPの診断に使用できるか研究されている。1つの研究では、病理組織検査でFIPと診断された猫の93%(81頭中75頭)が、mRNAのRT-PCR法に陽性で、17頭のFIPではない猫は陰性であった。
しかしながら他の最近の研究で、mRNAのRT-PCR法は、FIPの臨床症状の認められる猫からFIPウイルスを検出するのと同じくらい、健康な猫の血液サンプル中から猫コロナウイルスを検出する可能性が指摘された。
 バルトネラ症の猫では、血液培養、PCR検査または血清学的検査のために血液サンプルが提出されることがある(例. 発熱、ブドウ膜炎、無気力、リンパ節腫脹、歯肉炎、神経学的疾患のみられる猫)。
これらの検査で陽性の場合、バルトネラ症を鑑別診断リストに残すべきだが、それでも他の原因の調査は行うべきである。バルトネラ、ヘモプラズマ、リケッチア、エールリヒア、アナプラズマのPCR検査陽性の結果は、これらの病原体による臨床的疾患の診断と同一と見なすことはできない。
■関節穿刺
免疫介在性多発性関節炎は、びらん性(骨膜増殖性の変化と慢性関節リウマチ)と非びらん性(全身性エリテマトーデスと特発性多発関節炎)とに分類される。
猫ではこれらの疾患に関して十分な記述がない。 最近の研究で3年間に12頭の猫が慢性関節リウマチと診断されたことが報告された。このことは、以前考えられていたほどこの疾患は稀な疾患ではないことを示唆している。この研究では、シャム猫の比率が高かった。
骨膜増殖性の多発性関節炎は、特に若齢の、雄または去勢された猫では、恐らくより一般的である。
リウマチ因子の検査は、確定的ではない; 多発性関節炎の猫は、必ずリウマチ因子陽性を示すわけではなく、また他の病態も陽性結果となる場合がある。

■先端的な画像診断
CTやMRIは、診断がいまだにつかない場合や、他の検査でみつかった状態をより明確にするために役立つ場合がある。

人のFUOでは、ガリウム67、テクネチウム(Tc)99mまたはインジウムによって標識された白血球による核シンチグラフィーが、しばしばCTで見逃される炎症性病変と腫瘍性変化を発見するために、一般的に行われる。
獣医学領域でも核シンチグラフィーが行われることが増えてきている。甲状腺疾患、乳腺リンパシンチグラフィー、胃内容排出、糸球体濾過率、門脈体循環シャント、リバース動脈管開存症、および膵炎の評価に犬と猫での使用報告がある。
潜在性炎症や感染(膿瘍)の原発を見つける為に、FUOの検査で、放射性同位元素で標識された白血球や抗生物質を用いてを調査することは有益な手段であるかもしれない。
人のFUOの検査に用いられている最新の画像診断法の一つが、画像融合(image fusion)または共同登録(coregistration)と呼ばれるものである。それは、PET(陽電子放射断層撮影)とCTを結合したもので、異常な組織のCT画像と、異常な細胞(感染や腫瘍)による小さい代謝の変化を映し出すPET画像とを同時に一つの連続体として解析することができる。
PETで一般的に用いられる、グルコース代謝の増加の非特異的なトレーサーは、18F-フッ化デオキシグルコース(FDG)と呼ばれ、腫瘍細胞や活性化した炎症細胞に蓄積する。これらの細胞による解糖系活性の増加が、炎症部位や感染部位での18F-FDGの取り込みを増加させる。
基本的に、共同登録(coregistration)は、PETで小さな病変や腫瘍を発見し、CTで正確な位置付けをする。
PETは、発熱の炎症による原因を除外する際に高い陰性適中率を示すと、人の医学文献には述べられている。PET/CTで取り込み領域の増加がみられなければ、感染を除外できるかもしれない。

PET/CTの使用に関する犬の3つの症例報告と猫の1つの文献が、この画像診断法が獣医学でも画像診断に重要な役割を果たすことを示している。
猫のPET/CTの使用についての報告では、頭部でも放射性トレーサーが通常通りに取り込まれると述べられている。
先端画像技術の解釈に関する一つの問題点は、確認された異常が発熱の原因であるという証拠が得られないことである。 PET/CTは非侵襲性の診断技術として有望であるが、人での使用も限られている段階で、小動物について結論を出すにはまだ早すぎる。

発熱のある気難しい猫を取り扱う際の短いヒント
気難しい猫の保定のために軽い鎮静剤の使用は、細かい診断処置を行うだけでなく、身体検査のためにも、必要かもしれない。
鎮静剤の選択は、患者の臨床状態ならびに行われる処置による。
呼吸抑制が少なく、必要ならばナロキソンで拮抗できることから、ブトルファノール(К–作動薬かつμ-拮抗薬(0.2mg/kg、IV、IM、SC))、またはブプレノルフィン(部分的μ-作動薬(0.01mg/kg、IV、IM、SC))は良い選択である。
ブトルファノールの作用を拮抗するのに用いられるナロキソンの用量は、0.01~0.02mg/kg、IV、IMまたはSCである。ブプレノルフィンの作用を拮抗するためには、10倍以上の用量が必要かもしれない(0.1~0.2mg/kg)。
細胞外液量が正常で、心血管機能が安定していて、必要と考えるならば、少量のアセプロマジン(0.005~0.02mg/kg、IVまたは0.01~0.05mg/kg、IM)が使用できる。

(翻訳:街なか犬猫クリニック/獣医師 沖田 浩二)

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