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5月12日(木)のMRT「ペット・ラジオ診察室」のテーマは「血液塗抹」です。

 今回は「血液塗抹」について述べる。

 塗抹とは、「塗りつける」という意味で、血液塗抹はスライドガラスに血液を薄く塗りつけ、細胞の形態やそれぞれの数について情報が得られる。それにより、的確な診断を行う手助けとなる。

●赤血球系の評価
 例えば、貧血が認められた場合、何故貧血したのかを知る上で大いに役立つ。

 血球計算機により、赤血球数とともに平均赤血球容積(MCV)、平均赤血球色素濃度(MCHC)が測定され、それによって大球性低色素性、正球性正色素性、小球性低色素性などに分類される。ただし、誤った値が出ることもあるため、塗抹検査により確認する必要がある。

 ①大球性低色素性貧血
 青みを帯びた大型赤血球が認められ、これは骨髄から放出された直後の未熟な赤血球で、多染性赤血球と呼ばれる。
 このような貧血は、出血あるいは赤血球の破壊(溶血)が原因となり、骨髄における赤血球生産には異常がない。
 ②正球性正色素性貧血
 赤血球の形態的特徴に乏しいものである。これは、骨髄は反応していないと考えられ、非再生性の貧血である。
 その原因として、炎症性疾患、慢性腎不全、甲状腺機能低下症などがある。炎症性疾患に関連した貧血は、ヘモグロビン合成障害による赤芽球成熟阻害により生じる。慢性腎不全に関連した貧血は、エリスロポエチンの分泌不良による赤芽球系造血の低下により生じる。
その他、骨髄の造血異常に関連する場合もあり、その場合進行性で重度となる。骨髄での造血異常の原因としては、腫瘍細胞の増殖により骨髄細胞が置換されている、免疫介在性の赤芽球系(幼若な赤血球)の低形成・無形成などが考えられているが、強力な免疫抑制療法にも反応しないものが多い。 
 ③小球性貧血
 セントラルペーラーの部分がより広がり、非常に薄い赤血球となる。
 このような貧血は、ヘモグロビンの合成に問題があり、鉄の不足(出血、慢性疾患など)が原因となる。慢性疾患による鉄欠乏は、貯蔵鉄の枯渇ではなく、貯蔵鉄から赤芽球への鉄輸送障害、酸化的障害による鉄利用の低下と考えられている。
 ④大球性正色素性貧血
 多染性赤血球の出現を伴わない大小不同が特徴である。赤芽球の大型化(巨赤芽球)を示唆しており、その原因としては、腫瘍性増殖(赤血病、赤白血病)、骨髄異型性症候群、ビタミンB12や葉酸の欠乏などがあげられる。

その他、貧血に関連した形態的変化として以下のものがあげられる。
 ①ハウエルジョリー小体:核の遺残物と考えられており、反応性(再生性)貧血時には増加する。
 ②ハインツ小体:突出した無色構造物として見える。赤血球の膜における酸化的障害が生じた場合に認められ、たまねぎ中毒、猫ではアセトアミノフェンによって生じる。
 ③バベシア、ヘモプラズマ
 ④球状赤血球:直径が小さくセントラルペーラーは認められない。猫では球状赤血球の検出が困難なこともある。30~50%以上の出現は免疫介在性溶血性貧血に特徴的な所見である。
 ⑤好塩基性斑点:鉛中毒
 ⑥奇形赤血球:赤血球産生異常(鉄欠乏、骨髄異常)あるいは赤血球破壊亢進(溶血性貧血、DIC)で認められる。また、尿毒症、血管肉腫、重度の肝疾患でも認められる。

●血小板の評価
 特発性血小板減少症、播種性血管内凝固(感染、腫瘍、炎症などによる)、薬物投与といった原因により血小板の減少が認められることがある。
 血小板の減少に伴う症状としては、点状・斑状出血があげられるが、それらに気付いて来院されるケースよりも気付かずに来院されるケースの方が多い
 また、キャバリアの場合には特に注意が必要で、大型血小板の出現が認められることが多く、検査機器では血小板数が過小評価される可能性がある。また、この犬種では血小板が少なめであることも多いため、若い時からベースライン値として確認しておくとよい。

●白血球系の評価
 白血球の動きは炎症の存在など、全身の状態を反映するものであり、また骨髄に異常が起きた場合に、最初に白血球系に変化が認められることが多い。加えて、赤血球や血小板に比べ、白血球系の循環中での半減期は短い。(赤血球は猫で80日、犬で120日、血小板は1~2週間、好中球は6~10時間。)
 白血球は好中球、好酸球、好塩基球、単球、リンパ球があり、それぞれ特徴的な機能を有している。

①好中球増加症
 生理的および病的なものに大別され、前者は骨髄での増殖を伴わない。生理的なものとしては、エピネフリン、コルチコステロイドによるもので、ストレスや興奮に誘発されるものも含まれる。特に猫では採血時の興奮だけで好中球が変動する。病的なものとしては、炎症などに反応するものや腫瘍性のものが含まれる。
 ※炎症による好中球増加症:骨髄からの幼若細胞の放出は、組織での炎症の程度と時期に依存する。そのため、炎症初期には末梢血では左方移動(幼若な白血球の増加)顕著でない場合もある。骨髄での産生が確立された炎症では、左方移動が認められる。長期にわたる慢性炎症では、骨髄は組織での需要増大に追いついているのが特徴で、末梢血では左方移動は伴わない。また、より重度の炎症を伴う場合には、より未成熟な細胞が認められる。
 ※腫瘍性の場合、芽球の出現が顕著の場合もあるが、成熟型の好中球が多数出現する場合もある。

②リンパ球増加症
 感染症、リンパ腫、白血病など。

③好酸球増加症
 寄生虫感染、アレルギー、リンパ腫、肥満細胞腫、卵巣腫瘍、自己免疫性疾患、猫の好酸球性肉芽腫、好酸球性胃腸炎など。

④白血球減少症
 敗血症などの感染症、骨髄における異常、ウイルス感染(パルボウイルス、猫白血病ウイルス、猫免疫不全ウイルスなど)など。

血液塗抹は、他の検査と総合的に判断することで的確な診断に結びつく優れた検査法である。当然、診断により治療法は全く異なるものとなる。ぜひ、参考にしていただきたい。

文責:棚多 瞳

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