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10月13日(木)のMRT「ペット・ラジオ診察室」のテーマは「行楽シーズンの山野散策に御用心」です。

 昼間はまだ汗ばみ、車の運転もエアコンが必要ですが、朝夕は日増しに清々しくなっています。このような気候だと、憂さ晴らしも兼ねて山・野・海に「行楽」へ出かけたくなるものです。しかし、ペットを同伴しての行楽には注意が必要です。

<今日のワンコと病気>
 6歳半のヨーキーとチワワの雄のミックス犬で、体重が1.5kg。9月21日、飼い主の里帰りにお伴した際、山中の公園で遊んだ。10月2日になって食欲・元気がなくなり、10月6日に来院。来院時、39.8℃の熱発で、貧血と血小板減少などが見られた。血液塗抹検査でバベシア原虫が多数観察されたため、バベシア症と診断し、現在治療中である。

<バベシア症とは?>
●特にバベシア症(病原体は原虫のBabesia gibsoni)は、ここ宮崎で非常に多く見られ、日々の診療では常に診断リスト(ルールアウト)の一つとして頭に入れて置かなくてはならない疾患です。主にフタトゲチマダニが媒介し、他にツリガネチマダニ、 ヤマトマダニ、クリイロコイタマダニがあり、感染の成立にはマダニの吸血を2日以上受ける必要があります。僕がノミダニ駆除について飼い主さんに説明するときは、必ずこのバベシア症の話をするようにしています。なぜなら、駆除なしでは非常に感染のリスクが高く、また致死的な病態を示すためです。
●バベシア原虫は、赤血球のなかで分裂増殖することで物理的に赤血球を破壊したり、白血球がバベシアに感染した赤血球を直接攻撃し、破壊することで貧血が起ります。しかし、実際には、アレルギー的な機序で過剰に免疫反応(正常な赤血球までも破壊させてしまう)を起こすことが問題となり、且つ、重度の血小板減少もおき、非常に「オオゴト」です。他にも、脾腫(脾臓における赤血球と血小板のうっ滞に因る)、血尿、発熱などの症状が見られます。
●診断は、ダニ咬傷の有無、貧血所見、血小板の減少や脾臓摘出手術の往歴(脾臓は免疫=抵抗力=感染防御の親玉的臓器で、脾臓摘出後は感染のリスクが非常に高まるため)などがありますが、決定的なのは顕微鏡下での赤血球内に寄生するバベシア原虫の確認です。特徴的なのは、赤血球内に“双梨状”や“リングフォーム”と表現される虫体が確認できることです。
●治療には、抗バベシア薬である『ガナゼック』という薬が有効ですが、小脳出血による痙攣など非常に副作用が強いのが問題です。かつ「ガナゼック」は犬には認可されていない薬ですが、他に有効な薬がないため使用せざるを得ません。一部の抗菌剤にも効果がありますが、臨床的な効果は確立されていません。
●もともとは家畜の伝染病として恐れられた病気で、現在でも牛(特に放牧牛)の死因にはバベシア(正確には、牛ではピロプラズマ症という)によるものも多いです。「ガナゼック」は牛のピロプラズマ症のための薬なのです。
●ダニやノミは犬、猫はもちろん、問題は人間にも感染する病気をもっており、例えばダニが付着した犬が家に戻ったとき、そのダニが人間を噛むことで感染するといったルートも十分考えられます。
●宮崎では、特に山の中や河川敷にマダニが多く、ダニやノミが非常に“付きやすい”場所であると思ってください。犬も歩けばダニが付き、猫に小判はあげなくてもノミは付きます。じゃあどうしたらこれらの害虫から、そしてそれらが媒介する病気から可愛いペット達を守れるのでしょうか。※以上は2008年8月8日、小川獣医師による「ペット豆知識vol.6-ノミ、ダニが媒介する致死的な怖い疾患-」からの抜粋

バベシア症は、日本犬やその雑種犬では治癒率が高いが、洋犬では反対に死亡する例が少なくない。治療への反応が悪い

●日本での犬のバベシア症はBabesia gibsoniとB.canisがあり、後者は沖縄県のみ。前者は近畿以西の西日本に多いとされたが、最近では犬の移動が頻繁であるため、関東でも見られるようになった。後者もその遺伝子が本州のダニから検出されており、両者ともに拡大が問題視されている。
●B.gibsoniを媒体するダニ(ベクターという)は主にフタトゲチマダニで、他にツリガネチマダニ、ヤマトマダニ、クリイロコイタマダニであり、B.canisのベクターはクリイロコイタマダニである。
●青森県では闘犬用の土佐犬の間で感染が広がっていることから、血液を介した犬から犬への直接伝播や、胎盤感染も疑われている。当然ながら輸血でも感染が成立する。
●感染後7~10日で発症する。主症状は感染症に特有の発熱と貧血である。貧血はバベシアの赤血球内寄生による溶血性である。その溶血に伴い血色素尿と黄疸もしばしば認める。血管内溶血、食欲不振や頻脈など多くの症状を伴う。腹部触診では脾腫が見られる。血液検査では血小板減少症と赤血球の再生像を認める。確定診断は赤血球内のバベシア原虫を顕微鏡で検出することによる。
●血小板減少は抗血小板抗体の産生による。貧血もバベシア自体によること以外に、赤血球膜分子の変性の結果産生される抗赤血球自己抗体による赤血球破壊のメカニズムがある。複雑な免疫反応の結果である。
●治療はガナゼック(商品名、一般名はDimenazene aceturate)が有効であるが、小脳出血等による神経症状で死に至る事があるため、使用量とその方法に注意を要する。スルファ剤と抗生剤の合剤や免疫増強剤を補助的に投与する。自己免疫の関与が疑わしい場合には、ステロイド剤の同時投与も検討する。輸血もしばしば行うが、強制給餌を含め栄養の補給が極めて重要である。
●治療によって回復後もバベシア原虫は完全に排除されず、骨髄や脾臓などに持続感染しているため、宿主の抵抗力の低下で再発する場合が少なくない。
●外国では猫の小型バベシア症(B.felisとB.cati)が分布する。今のところ、日本では存在しない。※以上は2009年9月10日の放送内容より(ペット豆知識No.37-ダニの生態と犬猫に媒介する疾患-)より抜粋

<試す価値ありノミダニ駆除剤> できる事なら、ダニ、ノミの居る場所や居そうな処にペットを近づけない・連れて行かないことです。しかし、散歩などどうしても屋外に出たり、病院やペット・サロンに連れて行かざるを得ないのも事実です。この15年でノミ・ダニの予防が浸透した結果、バベシア症やノミアレルギーの症例は5分の1~10分の1まで減少していると思われます。ノミ・ダニ駆除剤はあくまでもノミ・ダニを殺す薬で、病原体を殺滅するものではありませんが、病気感染の防御に多大の貢献をしていることに間違いはありません。
 量販店やスーパーでよく「ノミダニ駆除剤」とか「ノミ取り首輪」とかを目にします。しかし、はっきり言って効果はとても弱いです。むしろ首輪を咬んで中毒を起こしたりすることもあり、実際に先月、当救急病院にもペルメトリン中毒(ノミ取り首輪の成分)を起こした猫が瀕死の状態で連れてこられました。数日後には回復しましたが、きっともう二度とノミ取り首輪を買おうとは思わないでしょう。
 そこで、我々動物病院では『フロントライン』やその他のスポットオン剤を処方しています。これらの類似品は量販店にもありますが、成分が違ったり、成分は同じでも量や濃度が半分であったりします。「フロントライン」をはじめ病院扱いで正規の駆除剤を月に一回、背中に垂らすだけでほぼ予防できます。まさに「ストップ・ザ・ノミ、ダニ」。未予防の方は、一度動物病院に相談されてはいかがでしょうか。※以上も2008年8月8日、小川獣医師による「ペット豆知識vol.6-ノミ、ダニが媒介する致死的な怖い疾患-」からの抜粋

<おわりに>
 ①まずは、山中や公園などへのお伴や散歩、草むらなどへの接近は極力避ける。②次には、スポットオンタイプのダニ駆除剤を予防に活用する

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