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12月22日(木)のMRT「ペット・ラジオ診察室」のテーマは「犬の嘔吐と制吐薬」でした。

 嘔吐は、小動物臨床において遭遇することが最も多い主訴あるいは症状の1つである。今回は嘔吐の病態生理と最近市販された新しいタイプの制吐薬について述べる。

<嘔吐とは?>
○嘔吐とは、腹壁筋と横隔膜の反射的収縮によって、胃の内容物が食道を逆流して口から排出される事象である。
○嘔吐は、吐く前に気持ち悪そうな仕草(悪心)や落ち着かない様子が見られた後に、腹部が激しく収縮して発現する。
○類似した症状に吐出があり、これは食物が胃に到達する前に食道内から口から排出される事象である。
○吐出の場合、悪心など何らの前触れなく、腹部の動きを伴わずに吐き出されることが多い。  
○さらに、空嘔吐(胃内容物が排出されない嘔吐)とを間違えることも少なくないため、注意深い観察が必要である。

<嘔吐の機序>(図1)
○生体の嘔吐発現には大別して、末梢性と中枢性の2つの経路が存在する。 
末梢性とは、消化管からの刺激が迷走神経および交感神経の求心路を通り、直接あるいは一度CTZ(化学受容器引き金帯)を介して嘔吐中枢に伝わる経路である。
中枢性経路は以下の3つに区分される。
 血液中に移行した物質がCTZを刺激し、さらにその刺激が嘔吐中枢に伝わる経路。
 大脳皮質からの刺激(心理的要因、炎症など)が嘔吐中枢に直接伝わる経路。
 前庭器官からの刺激が内耳神経を介して嘔吐中枢に伝わる経路。

○嘔吐中枢が興奮すると迷走神経、横隔神経、脊髄神経に刺激が伝わり、上部食道括約筋が弛緩し横隔膜と腹壁筋が収縮することにより、腹腔と胸腔内圧が上昇する。
○同時に胃内圧が上昇するため、胃幽門部で逆蠕動が起こり胃内容物が食道へ移動する、これが嘔吐のメカニズムである。
 
<嘔吐の原因>
○健康な犬でもしばしば嘔吐を認めるが、1日のうちに何度も吐くような場合には、以下の原因が考えられる。
 ①食餌:突然の変更、急速な摂取、過食、アレルギー、不定期な食餌の摂取など。
 ②胃腸疾患:炎症、潰瘍、狭窄、重積、寄生虫、腫瘍、胃拡張・捻転、胃の運動低下など。
 ③代謝性:糖尿病、肝不全、腎不全、副腎皮質機能低下症、甲状腺機能亢進症、電解質異常、肝性脳症など。
 ④その他:膵炎、腹膜炎、胆嚢疾患、子宮蓄膿症、横隔膜ヘルニア、中毒、動揺病、中枢神経疾患、脳内腫瘍、髄膜炎、前庭疾患、中毒、不安や緊張など。

<制吐薬の必要性>
○嘔吐が頻繁に繰り返されると、脱水、電解質不均衡、酸塩基不均衡などの異常が生じる。
○嘔吐が続持続している場合、飼い主はとにかく嘔吐を止めて欲しいと考えるかもしれないが、単純に嘔吐薬を使用するのではなく、それ以上に原疾患を調べることが重要になる
○しかし、嘔吐に伴う脱水や電解質異常は特に幼弱動物にとっては危険な状態となりうるため、輸液とともに嘔吐を抑える治療も、全ての症例ではないが必要となる。

<最近、開発市販された新しい制吐剤・マロピタント>
●嘔吐中枢は延髄の背外側網様体に存在し、すべての嘔吐刺激を統合して嘔吐を発現させる。
●嘔吐中枢において重要な働きをする受容体にはサブスタンスP(NK1)受容体、アドレナリン(α2)受容体、セロトニン(5-HT1A)受容体などがあり、制吐薬はこれらの受容体を拮抗することで嘔吐を抑制する。(図2)
マロピタント」は、嘔吐中枢およびCTZに分布するニューロキニン1(NK1)受容体とサブスタンスPの結合を阻害することにより、さまざまな刺激が原因の嘔吐に対して広範囲に制吐作用を示す。  
 
文責:獣医師 藤﨑 由香

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