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1月12日(木)のMRT「ペット・ラジオ診察室」のテーマは「猫伝染性腹膜炎(FIP)」でした。

 今回は「FIP(猫伝染性腹膜炎)」について述べた。

 この病気の最大の特徴は「不治の病」だということである。FIP(Feline Infectious Peritonitis)を治す効果的な治療法は現在のところまだ見つかっておらず、残念ながら致死的な疾患である。

原因は何なのか?
・病原性の低い猫コロナウイルスが猫の体内で変異するとFIPを惹起するウイルスとなる。つまり、猫コロナウイルスには病原性の低いものと、病原性の高いものに変異するタイプがあり、同じコロナウイルスでも異なった病原性を持つようになる。
・コロナウイルスに感染した猫のうち、ウイルスが変異しFIPとなるのはわずか5%である。
・コロナウイルスは決して珍しいウイルスではなく、外国の報告では、室内多頭飼いでは90%単頭飼いでは50%の猫がコロナウイルスに対する抗体を保有していた。
・主な感染経路は糞便を経口・経鼻的に摂取することによる。
・室内多頭飼いではトイレを共有するので、感染するリスクが高くなる。逆に、野良猫や外飼いの猫では外で排便し、糞便の上に砂をかけるため、糞(ウイルス)に接する機会が少ない。また、外で排便し砂に埋められたものは、ウイルスの不活性化までの時間は短くなり、更に感染しにくくなる。
 

変異を誘発する素因はあるのか?
・若齢猫
・感染症の存在(猫エイズ、猫白血病など)
・ストレス(多頭飼い、ワクチン、新しい環境など)
・手術
・ステロイド剤の投与
 
などの条件はコロナウイルス変異のリスクが高くなる。

どのような症状が見られるのか?
・滲出型と非滲出型がある。
・滲出型では腹水、胸水、心嚢水の貯留を認める。そのため、腹囲膨慢、呼吸困難、頻呼吸などの症状が見られる。
・非滲出型では、症状に特徴を欠く場合もあり、その症状は発熱、体重減少、無気力、食欲減少、ぶどう膜炎、運動失調、肝不全、腎不全など様々である。
・病原性の低いコロナウイルスに感染した場合には、その多くは無症状である。

どのように診断するのか?
・血液検査…総蛋白の上昇を認める。
・滲出液の性状…透きとおり黄色でねばねばしていることが多い。(滲出型のみで判断できる)
コロナウイルス抗体検査…血清中の抗体検査は広く行われている。ただし、抗体検査では病原性の低いウイルスと病原性の高いウイルスのどちらに感染しているかは分からない。そのため、診断には注意が必要で抗体価が低い~中程度の場合には診断的意義はない。
PCRによるコロナウイルスの検出…血液中にある程度以上のコロナウイルスが検出された場合は確定診断となる。(病原性の低いコロナウイルスに感染している場合でもわずかではあるが血液中にコロナウイルスが検出されることがある。)
・組織検査…肉芽腫病変を認める。
などにより診断していく。

予防法は?
・FIPの予防とはコロナウイルス感染の予防を意味するため、FIPの予防は簡単なことではない。しかし、その中でも気をつけておくべきことを以下に述べる。
・コロナウイルスは室内多頭飼いの環境では蔓延している可能性が高い。なかなか難しいが、多頭飼いの家庭では、2~3頭ずつ隔離することでウイルスの蔓延を食い止められることがある。
・コロナウイルスは衣類やおもちゃなどによっても感染することがある。見知らぬ猫に触れた場合はアルコールなどの消毒薬や石鹸を使用することでウイルスは破壊される。
・FIPが発生した場合、同じ家で新しい猫を飼い始めるまでに、ウイルスが不活化される期間である3ヶ月は待つ。

治療法と予後は?
・猫伝染性腹膜炎を治す効果的な治療法はなく、全ての猫が死ぬ疾患である。
・あるデータでは、確定診断後の寿命は短く平均16日であった。(時に200日というデータもある)痙攣を認める場合にはさらに予後不良となる。
・猫伝染性腹膜炎はウイルスそのものが重大な障害を引き起こすのではなく、猫自身の免疫反応が死をもたらす。
・そのため、治療は免疫抑制薬(プレドニゾロン等)の使用を中心に行われる。

文責:獣医師 棚多 瞳

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