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2月9日(木)のMRT「ペット・ラジオ診察室」のテーマは「犬猫の肝疾患」についてでした。

最近の診療で目立つ疾患に肝機能低下症がある。増加の原因が特定できないケースが多いが、根気強い対症療法で改善あるいは治癒するケースが少なくない。今回は臨床で遭遇する肝疾患の概要について解説する。
<疾患>
1.急性肝炎/中毒性肝障害
病態:犬・猫の急性肝炎の主な原因は感染性と中毒性が一般的。感染性(伝染性肝炎、FIP、敗血症性細菌性疾患、レプトスピラ症、トキソプラズマ症、バベシア症)。中毒性(化学薬品、自然毒、医薬品)。急性肝不全(肝臓の70~80%以上が障害)を発症すると黄疸、高アンモニア血症、低血糖がしばしば認められ、神経症状、感染抵抗性の減弱、ショック・DICに陥ることもある。
診断:GPTの上昇、ALPの上昇は軽度(犬のステロイド性や猫の肝リピドーシス以外)。急性膵炎、急性腸炎、他の肝疾患との鑑別は必ずしも容易でなく、原因の特定は困難なことも多い。

2.慢性肝炎/肝硬変
病態:肝機能不全(低アルブミン血症、腹水貯留、止血凝固障害、黄疸、肝性脳症)、門脈圧亢進(後天性門脈シャント、肝性脳症、腹水産生の助長)の2つの病態が関係しあっている。ほとんどの犬の慢性肝炎は特発性。日本ではコッカー、ラブラドールが多い。好発品種の慢性肝炎には銅の関与(銅の蓄積により肝細胞が壊死)が示唆されている。
診断:GPTの持続的上昇。超音波(肝臓表面の不整、肝硬変では高エコー・結節性病変)。確定診断には肝生検。肝機能項目の低下。

3.猫の胆管炎/胆管肝炎
病態:好中球性、リンパ球性、破壊性、肝吸虫寄生関連の慢性胆管炎の4つに分類される(WSAVA)。炎症が肝細胞実質に波及した場合は胆管肝炎となる。胆管肝炎に罹患した猫では膵炎、IBDの併発率が高い(胆管炎では併発率は高くない)。好中球性(腸からの上行性細菌感染)とリンパ球性(10歳以上の猫で80%以上の罹患率、原因不明)が一般的。
診断:肝酵素項目の上昇(ALPもGGTも上昇)。T-bilの上昇(特に胆管肝炎)。血糖値の上昇(特に胆管肝炎)。確定診断は肝生検。

4.猫の肝リピドーシス
病態:何らかの基礎疾患や環境要因の変化のために食欲不振に陥り、貯蔵脂肪の異化亢進が起き、肝臓の代謝量を超えて脂肪酸が肝細胞内に蓄積することで起こると考えられている。肝リピドーシスの猫では急速に肝不全が進行していることも多い。
診断:食欲不振、体重減少。肝酵素項目の上昇(GGTはALPに比べあまり上昇しない)。超音波(高エコー)。

5.門脈体循環シャント(PSS)
病態:先天性と後天性に分類される。先天性は肝内と肝外に大別される。先天性PSSでは門脈低血圧となり基本的には腹水などは認められない。後天性PSSでは門脈高血圧に続発して発症する(慢性肝炎/肝硬変、微小血管異形成が代表的な原因となる)。肝性脳症は特にPSSによって引き起こされることが多い。
診断:発育不良、腹水(後天性PSS)。肝酵素項目の上昇(先天性PSSでは軽度の上昇)、肝機能項目の低下(高アンモニア血症、高胆汁酸血症、犬BUN≦10mg/dL、犬Tcho≦100mg/dL。先天性PSSでは黄疸も示さないことが多い)。X線(小肝症)。超音波(肝内は容易、肝外は難しい)。膀胱結石(尿酸水素アンモニウム結石←X線透過性)。

6.微小血管異形成(MVD)/原発性門脈低形成
病態:小葉間静脈(門脈)の低形成あるいは欠損が認められ、代わりに門脈域で小葉間動脈と小葉間胆管の増生が認められる。先天的に肝内の微小門脈系と微小静脈系が吻合していると考えられている血管形成異常。軽度のものが肝微小血管異形成、中等度が非肝硬変性門脈圧亢進症(多発性のPSS形成)、重度で肝門脈線維症の病態を示す。しかし微小血管異形成の症例が、その後多発性PSSを形成するか(進行するか)は不明である。
診断:食後胆汁酸は軽度~中等度上昇。ときに高アンモニア血症。確定診断は肝生検と先天性PSSの除外。高アンモニア血症が認められず高胆汁酸血症だけが認められる場合は、多くは一過性の肝障害による高TBA血症か原発性門脈低形成である。

7.肝臓腫瘍
病態:原発性腫瘍(肝細胞性、胆管性、カルチノイド、肉腫)は犬では転移性より稀、猫は転移性より多い。犬では肝細胞性(肝細胞癌・腺腫、結節性過形成)は比較的多い。犬では胆管細胞腫瘍(胆管細胞癌・腺腫)は稀。塊状型癌の予後は取りきれた場合は非常に良好、多結節およびび漫性癌は予後不良。猫では肝細胞腫瘍は少なく、胆管細胞癌が肝胆道系腫瘍の中で最も多い悪性腫瘍で予後は不良。神経内分泌系(カルチノイド)腫瘍は稀で予後不良。肉腫(血管肉腫、リンパ腫)は原発性は多くない、予後は他臓器原発に準ずると思われる。
診断:塊状型の肝細胞腺腫と癌の鑑別は、病理組織以外では困難。FNAで上皮様細胞塊が多数採取された場合は胆管細胞癌、肝カルチノイド、転移性悪性上皮系腫瘍を疑う。超音波(肝細胞腺腫・癌は高エコーで内部が不整が多い。結節性過形成はエコー源性は様々で一般的には3cm以下、標的病変みられることはほとんどない。胆管細胞癌は多発性低エコーか標的病変が多い。血管肉腫はミックスパターンの腫瘤や高エコーや標的病変、リンパ腫のエコー源性は様々)。肝酵素項目の上昇が認められることが多い(結節性過形成では異常を示さないことが多い)。超音波造影剤(結節性過形成との鑑別)。

8.空胞性肝障害(高脂血症関連性)
病態:空胞性肝障害は過剰な肝グリコーゲンや脂肪含有との関連がある。予後は良好であるが、高脂血症は胆嚢粘液嚢腫に進行することがある。重度の犬の甲状腺機能低下症でも高脂血症に関連した空胞性肝障害がみられることがある。シュナウザーの高脂血症では膵炎を発症する場合があるので注意が必要。肝臓用治療食は推奨されない。(低脂肪食が適応)
診断:シュナウザーに多く見られ、他にビーグルやシェルティーでの報告がある。間歇的な嘔吐、腹痛、肝腫などがみられるが症状を伴わないことも多い。肝酵素項目の上昇(ALPの増加、特に顕著)。肝機能項目(高脂血症とくにT-Choの増加、NH3、TBAは多くで正常)。X線(肝腫大)。超音波(び慢性高エコー)。確定診断は病理組織と除外診断に基づいて行われるが、細胞診でも十分な診断価値がある。

9.胆嚢炎
病態:急性、慢性、壊死性、気腫性に分けられる。胆嚢胆管が閉塞し、胆汁が濃縮されると化学的刺激や胆嚢内圧上昇により、胆嚢粘液が障害され急性胆嚢炎を生じる。この状態が続くと細菌感染や胆嚢穿孔を起こす。急性胆嚢炎が穏やかに繰り返し起こった場合、慢性胆嚢炎となる。
診断:炎症所見(CRP上昇、白血球増加、左方移動)があり、超音波で胆嚢腫大、胆嚢壁肥厚、胆嚢内浮遊物などの所見が認められる。

10.胆石症
病態:超音波で胆石あるいは胆泥が見つかることは少なくないが、症状を呈するような胆石症は多くない。胆石、胆泥の形状は大きな結石~砂状までさまざまであるが大半は砂状あるいは軟泥である。性状からコレステロール系胆石と胆汁色素系に分けられる。犬は大部分が胆汁色素性(ビリルビンとカルシウム主体)であり深緑~黒色を呈する。胆汁組成の変化、胆汁うっ滞、感染、炎症が引き金となって胆汁に含まれる成分が析出することによって生じる。
診断:超音波検査が最も有効である。胆石があっても必ずしも症状を伴うわけではないので他に原因がないか検討する必要がある。

11.胆嚢粘液嚢腫
病態:胆嚢内に可動性のない粘液が集積し凝集し拡張している病態。正確な発生機序は不明だが、胆泥/胆石や濃縮胆汁による刺激が主な引き金となり、胆嚢壁の粘液産生細胞が過剰に粘液を産生することによると考えられている。最近、胆嚢粘液嚢腫の犬でリン脂質トランスポーターABCB4の遺伝子変異が高率に認められたことが報告された。最終的には壊死、破裂し胆汁性腹膜炎が生じると考えられるが、症状の発現・進行は緩徐であることが少なくない。胆嚢炎や膵炎、総胆管閉塞により、嘔吐、元気食欲低下、発熱、腹部疼痛、黄疸などの症状が生じるが、一過性で保存療法により一旦軽快するが同様の症状を繰り返すことが少なくない。
診断:犬での発生が多い。中~高齢犬、シェルティー、コッカー、ビーグル、シーズー、M.シュナウザーが好発。肝酵素項目の上昇(ALP・GGT上昇)。肝機能項目(総胆管閉塞を伴う場合は高ビリルビン血症)。超音波(胆嚢内壁に沿い低~無エコーの層(ムチン)がみられ、その内部は胆泥あるいは濃縮胆汁により高エコーに見える。キウイフルーツの断面に例えられる。病状の進行により中心の胆泥領域が減少し不動化する。胆嚢壁の肥厚や周囲脂肪の高エコーがみられることが多い。胆嚢破裂では胆嚢が確認できないこともあるが、胆嚢の形状をほぼ保っている。)

<文献で見られる肝疾患>
1.ミニチュアシュナウザーの空胞性肝障害
2.猫の胆管炎
3.総胆管結石・胆嚢粘液嚢腫・胆嚢カルチノイドによる犬と猫の肝外胆管破裂
4.ラブラドールレトリバーの銅性肝炎
5.ケアンテリア家系の肝門脈微小血管異形成(MVD)の特徴
6.無症候性肝炎を有するド―ベルマンの肝臓からの64)Cu(静脈内放射性銅アイソトープ)排泄
7.ウィ―ントンテリアに見られた核黄疸(Kernicterus)

○肝胆道系疾患の共通症状
 ・食欲不振、嘔吐、下痢、沈鬱、嗜眠、体重減少など非特異的な症状
 ・黄疸、腹部膨満、血液凝固障害、代謝性脳症(ふらつき、旋回、全身性発作、昏睡)

○診断
 ・問診
  薬剤投与歴はあるかどうか、食欲不振があるかどうか(猫)
 ・血液検査
 ・レントゲン検査
 ・超音波検査
 最終的な確定診断は肝生検によるものも多い
 → しかし、肝臓は血管豊富な為出血のリスクを伴う。ほとんどの場合全身麻酔が必要になる。
  家族性慢性肝炎や腫瘍が疑われる場合や持続的な肝酵素の上昇と総胆汁酸の異常が認められる場合には肝生検を考慮する。
 
○まとめ
 肝臓は予備能が大きい為、少なくとも55%が障害されるまで症状はない。
つまり、検査で分かる時点ではある程度進行しているということである。
いつもよりちょっと元気がない、食欲がないというようなハッキリとした症状がなくても肝臓が悪いケースもあるので注意が必要である。

※肝酵素項目(GPT,GOT,ALP,GGT)
※肝機能項目(ALB,BUN,T.Bil,T.Cho,Glu,NH3,TBA)
(cf) SA Med, 13(3), 2011. 14(1), 2012.

文責:獣医師 藤﨑 由香・獣医師 沖田 浩二

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