コンテンツへスキップ

3月1日(木)のMRT「ペット・ラジオ診察室」のテーマは「外科シリーズ第6弾:尿管結石(腎結石)の手術」でした。

●犬猫には尿管結石は存在しないのではないか、というくらいに稀な疾患であった。10年位前に、マルチーズが腎不全で来院し、結石に起因する尿管破裂で死亡した例を経験した。最近では、猫での尿管結石(シュウ酸カルシウムが主)の学会発表が増えている。当院でも明らかに増加傾向にある。

●尿管結石は腎臓(腎盂)で形成された結石が尿管内に移動することに因る。腎結石(腎盂に存在)では明らかな症状を示さないケースが多い。また、腎切開術は手術侵襲と麻酔のリスクが高いため、一般的には手術の選択はしない。腎切開術を行うと術後一時的に20~50%の腎機能低下を認める。多くの症例では腎切開術の前に腎機能が低下しており、手術と麻酔の侵襲で致命傷になり得るため、その決定には慎重を要する。※腎結石は尿路結石の約4%を占める。※ヒトでは体外衝撃波結石破砕術が一般的。

●尿管結石は、症状(沈うつ・食欲低下など)・レントゲン撮影・超音波検査で診断可能である。診断に迷う症例では、静脈性(下行性)尿路造影を実施して確定する。
○症状は痛み(疼痛)に起因し、腹部触診での腹筋の緊張が存在。
○レントゲン撮影で、石灰化した結石の確認。周囲の組織が石灰化していて、尿管結石と断定できない場合には、下行性尿路造影を実施して判断する。
○超音波検査では、腎盂に近い尿管(近位尿管)の拡張が認められる。結石による閉塞の度合いが大きい程、拡張の程度も重度である。

●術前には点滴や利尿剤、鎮痛剤の投与で、尿管の結石を膀胱に移送させる努力を試みる。しかし、実際には内科療法に反応し難く、尿管の粘膜に結石が食いこんでいるケースが殆どである。

●術式:
○手術は正中切開で、切開創は長めに施す。
○腎臓を取り巻いている体壁腹膜などの被膜を慎重に分離して、腎臓の背側をフリーな状態にする。
○腎臓を内側に回転させることで、尿管の確認が容易となる。
○腎門の脂肪組織や結合組織を剝離し、拡張した尿管を周囲の組織から分離する。
○尿管を閉塞している結石を確認する。
○拡張した尿管を腎門に近い部位で切開する。○尿管結石の腎臓方向への移送を試みる。
○切開部位に近ければ、鉗子などで結石を摘出する。
○尿管の切開口から3Fr~5Frのカテーテルを膀胱方向に挿入して、閉塞した結石の移送を試みるが、通常は無理。
○結石で閉塞している尿管を切開する。この時、カテーテルを閉塞部位まで挿入して結石の真上に切開を加えず、カテーテル先端にメスを入れる。そして、その切開創から結石を摘出する。結石真上を切開しないのは縫合に因る癒合不全のリスクを低下させる為。尿管結石の摘出後はカテ―テルを膀胱まで進めて、他の結石が存在しないことを確認する。
○尿管の壊死が見られるなどその損傷が儒ウオッであれば、部分切除して尿管吻合を実施する。
○カテーテルを設置したままで尿管を単純連続縫合(単純結紮でも良い)する。合成の吸収性縫合糸を用いる。糸のサイズ(USP)は4-0・5-0(太さは0.07mmm~0.1mm)。
○縫合し終えたら、カテーテルを抜去する。
○次に最初に切開した腎臓に近い切開創より、鉗子を用いて、あるいはカテーテルを腎盂内に挿入して生食水またはリンゲル液でフラッシュ洗浄して結石を洗い出す。結石は鉗子でそのまま摘んで出しても良いし、鉗子で結石を砕いてから洗浄で洗い出しても良い。
○結石の全部を摘出したならば6-0~8-0(太さは0.099mm~0.04mm)の吸収性合成縫合糸で単純連続縫合(単純結紮でも良い)する。
○尿管結石は両側に存在するケースもあるため、その場合には両側の手術を実施する。
○また、膀胱結石も存在する場合で、時間が許せば、かつ動物の麻酔の状態が良ければ、膀胱切開して摘出する。

●動物も高齢化で腎結石や尿管結石の症例が増加している。膀胱結石や♂の尿道結石は犬猫問わず、最もポピュラーな疾患である。特に、猫の場合には若齢でも腎結石や尿管結石、膀胱結石、尿道結石に罹患し得る。少なくとも5歳以上の猫の症例では健康診断に腹部レントゲン撮影やエコー検査を取り入れるべきであろう。犬においても膀胱結石や尿道結石の既往がある症例や10歳前後以上の高齢犬では同様な留意が必要であろう。

先頭へ

電話受付