コンテンツへスキップ

3月29日(木)のMRT「ペット・ラジオ診察室」のテーマは「脾臓の疾患」でした。

○脾臓とは
 胃の後方に位置し、主に以下の4つの機能がある。
・血液貯留
 脾臓は大量の血液を蓄えることができる構造になっており、赤血球や血小板が予備として貯蓄できる。これらは運動時や出血時、酸素欠乏時に使用される。
・血液の濾過
 脾臓を通過する血液中の異物などの有害なものを取り除くフィルターの働きがある。また、老化した赤血球や損傷赤血球、白血球、血小板は脾臓で処分される。
・免疫
 リンパ節同様にリンパ球を産生し、全身的な免疫に関与する。
・造血
 主に胎児期に赤血球や白血球を作る造血の場として働く。生後は逆に老化した赤血球を破壊する働きをするが、必要に応じて造血が行われることがある。

○脾臓の腫大、結節、および腫瘤の鑑別診断
腫瘍性疾患            非腫瘍性疾患
 <良性>              ・膿瘍
 ・線維腫             ・髄外造血
 ・血管腫             ・血腫
 ・脂肪腫             ・血栓症/梗塞
 ・骨髄脂肪腫           ・捻転
 <悪性>              ・結節性過形成
 ・軟骨肉腫
 ・線維肉腫
 ・脂肪肉腫
 ・リンパ肉腫
 ・肥満細胞腫
 ・間葉腫
 ・粘液肉腫
 ・骨肉腫
 ・横紋筋肉腫
 ・未分化肉腫
 ・転移性の新生物

○診断
 症状としては腹囲膨満、食欲不振、嗜眠、抑うつ、嘔吐などが見られる。あるいは脾臓の破裂や出血のためにショック症状を呈する場合もある。一方脾臓の疾患は症状を伴わないことも多く、偶発的に見つかることも少なくない。脾臓の大きさ、結節や腫瘤の有無はレントゲン検査、超音波検査で実施することができる。しかし、鑑別は病理組織学的検査によって行なわれる場合が多い。
 脾臓の腫瘤には法則があり、「脾臓腫瘤のうち3分の2が悪性腫瘍、さらに悪性腫瘍の3分の2が血管肉腫である」と言われる。良性病変であっても悪性腫瘍同様に破裂の危険性は常にあり、大きな腫瘤病変であっても良性の可能性は十分ある。

○治療
 脾臓は様々な働きをしているが、全摘出しても生命に別状はない。脾臓の腫瘍、捻転、出血を止められない場合には脾臓全摘出術が選択される。限局性病変で脾臓の機能を保持したい場合には脾臓部分切除術が選択されることもある。

○脾臓摘出術の合併症
 ・出血
 ・播種性血管内凝固症候群(DIC)
 ・以前に感染していた不顕性の血液寄生病原体(Babesia、Ehrlichia、Mycoplasma)が顕在化する。
  術前に感染がないことを確認する必要性がある。Babesiaでは血液塗抹による虫体検出、PCR、リアルタイムPCR、抗Babesia抗体検出などの方法がある。

○予後
 診断によって予後が大きく異なる。そのためにも病理組織学的検査を実施して確定診断する必要がある。
 血管肉腫の場合外科的切除を実施した場合、生存期間平均値19~65日。外科的切除および抗ガン剤治療で生存期間平均値271日。

○まとめ
 脾臓の腫瘤はさまざまな疾患が考えられるが、一般に「3分の2が悪性腫瘍、さらにその3分の2が血管肉腫」である。確定診断には病理組織学的検査が必要になる場合が多い。血様腹水を伴う場合でも良性の可能性もある。脾臓全摘出の場合には特にBabesiaの不顕性感染がないかどうかチェックする必要がある。予後は診断によって異なる。

文責:獣医師 藤﨑 由香

先頭へ

電話受付