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今週の症例(2013年6月30日)No.14:クッシング症候群に起因すると考えられた動脈塞栓症-

[症例]:13歳雑種、雄。
[経過と治療]:9歳齢時の健康診断からALPの上昇が認められていたが、経過観察していた。昨年12月に呼吸促迫と食欲低下で来院。著変は認められず経過観察。数日で症状は改善したとのこと。今年4月再び食欲低下で来院。AMLYが高値を示すことから膵炎を疑い治療を開始し、加療で改善するものの完全に回復は見られず。その後次第に右後肢に力が入らなくなり、股動脈圧が触知不能であることから血栓塞栓症を疑う。ACTH刺激試験は前後共に高値を示したため副腎皮質機能亢進(クッシング)症と診断し、その治療と維持療法を行うが治療の甲斐なく斃死した。剖検にて下腹の大動脈から外腸骨動脈、大腿動脈にかけて塞栓した血栓を確認した。肉眼的にはほぼ完全閉塞であった。
[ワンポイント講義]:
血液凝固亢進は血栓塞栓症の素因となる後天的な異常である。血栓症は血栓が血管内に形成される状態で、それによって循環器系の血液流動が妨げられる。獣医学領域においても徐々に認識されつつある。
犬や猫では全身性疾患や代謝性疾患により二次的に発生することが多い。犬の肺血栓塞栓症の47頭の死後解剖調査では心疾患、腫瘍、副腎皮質機能亢進症、播種性血管内凝固症候群(DIC)、敗血症で認められたとの報告がある。一般に血栓症を引き起こす病因として知られている疾患は副腎皮質機能亢進症、糖尿病、免疫介在性溶血性貧血、タンパク漏出性腸症、ネフローゼ症候群、膵炎、敗血症、犬糸状虫症、腫瘍、感染性心内膜炎が挙げられる。
正常な止血状態では血液凝固と(反対の)凝固抑制機構のバランスがとれているが、これらが破綻したり血液凝固が優位になると、過剰な血栓が形成される。これらが起こる原因としては主に血管内皮の損傷、血流の異常、血液凝固因子の異常が挙げられる。
血栓塞栓症は副腎皮質機能亢進症の重大な合併症であるが、正確なメカニズムは解明されていない。しかし、副腎皮質機能亢進症ではアンチトロンビンという抗凝固作用をもつ物質の活性が下がっているとの報告や、循環する凝固(促進)因子の濃度が上昇しているとの報告がある。
診断は臨床徴候や身体検査、画像診断、血液検査をもとに総合的に判断する。大腿動脈の触知は勿論、腹部大動脈や外腸骨動脈の(ドップラー)エコー検査が重宝である。血液検査ではD-dimerやFDPの測定の有用性が検討されている。
治療は大きく、1.血栓溶解療法、2.維持療法、3.予防療法に分けられる。血栓溶解療法(ウロキナーゼなど)はまだ確立されていないが、出血や再灌流障害などリスクを伴う。維持療法では原疾患の治療を行い、血栓の拡大を防ぐことを目的とする。予防療法はリスクある疾患(上記)の症例に対して手術の際などで血栓予防療法を実施することがある。

文責:獣医師 藤﨑 由香

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