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今週の症例(2013年7月24日)No.15:M.ダックスのアジソン病(副腎皮質機能低下症)

[症例]:7歳、Mダックス、避妊雌、3.8kg。
[主訴]:10日前から全身の震え、元気食欲低下、嘔吐の重度化。
[診断]:来院時の心拍数が60回/分、Na124mEq/l、K7.5mEq/l、Cl96mEq/lと電解質異常(重度低ナトリウム血症・高カリウム血症)を呈しており、BUN86.4mg/dl、Cre2.5mg/dlと腎機能低下も認められた。これらの所見から本症例はアジソン病(副腎皮質機能低下症)を疑い、かつ現在ショック状態のアジソンクリーゼと仮診断して治療を開始した。
[治療経過]:緊急に電解質輸液を実施。同時にミネラルコルチコイドとグルココルチコイドの補充療法を開始。3日間の点滴後、フルドロコルチゾンとプレドニゾロン内服を開始。約1カ月経過した現在、フルドロコルチゾン内服のみで電解質は正常値を示し、臨床症状も改善している。
[ワンポイント講義]:
副腎皮質機能低下症(アジソン病)はグルココルチコイド、ミネラルコルチコイドの産生不足により生じる内分泌疾患で、病態は慢性から生命に関わるほど重篤なアジソンクリーゼまで様々である。特発性(自己免疫)、感染症、転移性腫瘍、クッシング症候群の治療による医原性などがある。犬では特発性の副腎萎縮が多くみられ、特発性の副腎萎縮は症状の波を伴いながらゆっくりと進行する。ある程度以上の副腎機能が失われ、ストレスが加わると突然のショック状態に陥る。
犬ではやや稀、猫で非常に稀な疾患で、犬での発症平均年齢4歳、雌で多い傾向がある。
症状は元気食欲低下、嘔吐、体重減少、振戦、多飲多尿、虚弱、徐脈など。
治療は不足するミネラルコルチコイドとグルココルチコイドを補充する。アジソンクリーゼの場合は緊急治療対象となる。初期治療は電解質輸液であり、副腎皮質機能低下症の場合には電解質輸液開始数時間後には症状が改善するはずである。状態が悪い場合にはデキサメタゾンを投与すると、さらに状態改善は速やかである。確定診断にはACTH刺激試験を実施するが、デキサメタゾン投与はACTH刺激試験の結果には影響を与えない。自由飲水と摂食が可能なほど回復したら維持治療に切り替える。維持治療ではフルドロコルチゾンを投与。維持しにくい場合にはプレドニゾロンを併用する。その他ピバル酸デソキシコルチコステロンを用いた治療の報告がある。適切な治療がされれば、予後は良好で天寿を全うできる。
近年、電解質異常を呈さずにグルココルチコイドのみ不足する非典型副腎皮質機能低下症の報告がある。消化器疾患や虚弱などの症状がみられるがミネラルコルチコイドの分泌は保たれているため電解質は正常値を示す。診断にはACTH刺激試験を実施し確定診断する。

文責:獣医師 藤﨑 由香

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