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今週の症例(2013年7月26日)No.16:股関節形成不全による股関節脱臼を起こした犬の1例

[症例]:生後5か月のトイプードル、雌、体重2.68kg。
[主訴]:2週間前から続く右後肢の跛行を主訴に来院。
[検査]:来院時右後肢を挙上し、触診にて捻髪音を生じる。レントゲン撮影にて右股関節頭背側脱臼と左側の股関節形成不全を認める。右の股関節脱臼は形成不全に因るものと判断した。
[治療・経過]:両側の大腿骨頭切除術を実施した。術後7日目から自由運動とし、第14病日の現在、経過は良好である。
[ワンポイント講義]:
股関節形成不全の原因は遺伝的因子と環境的因子の両方が関与するといわれる。大型犬種での発生が多いとされるが、本症例のように小型犬種でも発生する。猫ではまれ。若齢犬(生後5か月~10か月)で症状が見られる場合と高齢犬になって症状が認められるものがある。若齢犬では関節軟骨の摩耗によって痛みが発生し、高齢犬では変形性関節症により痛みが生じると考えられている。
若齢犬の場合の症状は休息後の起立困難、運動不耐性、間欠的もしくは持続的な跛行が見られ、成長に伴い症状は進行する。高齢犬の場合の症状は起立困難、運動不耐性、運動後の跛行、後肢のふらつきなどがある。
治療は大きく内科療法と外科療法に分けられる。若齢犬の症例に内科療法を行った場合、成熟後約75%の動物で良好な状態を維持できる。初期は絶対安静が必要。その後は関節の可動域を維持するためにリハビリテーションを実施する。痛みが強い場合には抗炎症薬を使用するが、痛みから開放されると安静を保てなくなる場合もあるので、注意が必要である。高齢犬の変形性関節炎の症例は体重の減量、栄養補給(オメガ3脂肪酸・グルコサミン・コンドロイチン)、抗炎症薬、リハビリテーションを行う。
外科療法は内科療法で維持できない場合、高い運動能力が求められる症例、飼い主が変形性関節症の進行を遅らせることを望む場合、長期にわたって機能を良好に保てる可能性を高めたい場合に実施する。外科療法の術式は1.若齢期恥骨治癒術、2.骨盤骨切り(3点骨切)術、3.股関節全置換術、4.大腿骨頭切除術から適切な術式を選択する必要がある。

 本症例は股関節脱臼を起こしている為、大腿骨頭切除術を選択した。対側も近い将来、股関節脱臼を起こす危険性が高いと判断し、両側大腿骨頭切除を実施した。通常片側の大腿骨頭切除術を実施すると3本足で歩行するようになり、リハビリテーションに苦戦することが多いが、本症例は両側同時に実施することでリハビリテーションは容易となった。

文責:獣医師 藤﨑 由香

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