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今週の症例(2013年8月29日)No.17:猫の甲状腺腫

[症例]:13歳、雑種猫、去勢雄、5.8kg。
[主訴]:3ヶ月前から急に痩せてきて、呼吸が荒くなった。健康時からしばしば嘔吐がみられていたが、嘔吐回数が増えたとのことで来院。
[診断と治療]:健康時と比較すると体重が2kg程減少。血液検査では肝酵素の軽度上昇が認められた(GPT 129U/l)。触診にて頸部、甲状腺の辺りに1.0×3.0㎝の腫瘤が触知された。甲状腺ホルモン(T4)濃度は>15μg/dlと高値を示し、細胞診では甲状腺濾胞細胞が見られた。機能性甲状腺腫瘍による甲状腺機能亢進症と診断。抗甲状腺薬による内科療法を実施して経過観察。腎機能に問題がないことを確認してから、外科的切除(片側甲状腺切除術)を実施。病理組織学的検査は甲状腺腫であった。術後も甲状腺ホルモン濃度は4.1μg/dlと軽度上昇していたため抗甲状腺薬を減量して継続。現在甲状腺ホルモンは正常値で維持できている。

[ニャンポイント講義]:
甲状腺機能亢進症は主に猫で見られる疾患である。日本のネコの有病率は6.5%という報告がある。原因は甲状腺の過形成、腫瘍、医原性に分けられる。欧米の報告では大半が過形成だが、日本では欧米に比較すると腫瘍が多い。猫では機能性甲状腺腫瘍が多いが、犬では甲状腺機能は正常である場合が多い。
症状は体重減少、多飲多尿、頻脈、攻撃性の増加などが認められる。甲状腺の腫大を触知できる場合もあるが、触知できない場合も多い。診断は血液中甲状腺ホルモン濃度測定や細胞診を実施する。
治療は抗甲状腺薬による内科療法と外科的切除の2つの方法がある。抗甲状腺薬による治療を腎機能をモニターしながら実施し、腎機能が問題ない場合には外科的切除も選択することができる。放射線治療の報告もあるが現実的ではない。
甲状腺のすぐ近くには副甲状腺(上皮小体)が存在するため、外科的切除時には血中のカルシウム濃度をモニターしなければならない。また、両側の甲状腺摘出を実施した場合には甲状腺ホルモンの補充が必要になる。
血液中のサイロキシン濃度が低下しても高血圧が改善しない場合や頻脈が改善しない場合にはACE阻害薬やCaチャネル拮抗薬、βブロッカーの投与が必要になる場合もある。
近年、軽度甲状腺機能亢進症の場合に有効であるヨード制限フードも販売されている。低ヨウ素食を与えることで甲状腺ホルモン濃度が正常化することもある。

文責:獣医師 藤﨑由香

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