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今週の症例(2013年9月16日)No.18:食用油誤食の恐ろしさを思い知らされたトイプードル

[症例]:トイプードル、4歳、避妊雌、4.0㎏。
[主訴]:右眼に膜が張ったように見えるということで来院。元気食欲低下。前日にゴミ箱を漁っていて、使用後の油を固めたものを食べたかもしれないとのこと。
[診断と治療]:右眼は前眼房混濁し左の瞳孔に比べ少し縮瞳気味であった。眼圧は右が15mmHg、左が19mmHgとやや低下。これらの結果からぶどう膜炎と診断し、全身性疾患の鑑別のため血液検査を実施。血漿は重度に白濁し、肝酵素の上昇など顕著な異常を認めた(GPT883U/l、WBC82800/μl、CRP5.6mg/dl、TG45000mg/dl)。輸液と点眼によるぶどう膜炎の治療を開始した。第2病日に右眼前眼房混濁は改善し、血漿の白濁も薄くなってはいるものの、TG(トリグリセライド=中性脂肪)が30600U/lと依然高値を示す。第3病日、頻回の嘔吐が見られるようになり、初診時287U/lであったAMLY(血中アミラーゼ値)が3405U/lと上昇したため急性膵炎と診断し、輸液に加えて制吐薬、抗生剤の投与を開始。第4病日に腹水貯留が確認され、黄疸も見られた(T.Bil=総ビリルビン値が3.2mg/dl)。第7病日にはPLT(血小板数)も22000/μlと低下し急性膵炎に続発する播種性血管内凝固(DIC)が疑われたが、PLT はその後回復した。黄疸もT.Bilが12.1mg/dlまで上昇したがその後低下した。超音波検査にて膵臓領域に炎症とそれに伴う癒着を思わせるような像が認められた。また腹水もその領域(周囲)に限局的に認められた。第15病日、バリウム造影を実施して通過障害がないことを確認し、流動食を開始した。同時に抗炎症量のステロイド投与を開始した。ステロイドは漸減しながら9日間使用し、漸次食事量を増やしたが徐々に嘔吐も認めなくなった。第71病日T.Bil0.3mg/dlと正常値まで低下した。

[ワンポイント講義]:
①高脂血症とは絶食中(12時間以上)の動物の血中脂肪濃度が高い状態をいい、高コレステロール血症および高トリグリセリド血症の両方かどちらか一方が高値を示す。
②原発性高脂血症と二次性高脂血症に分けられ、原発性の場合には特発性高乳び血症(ミニチュアシュナウザーの家族性疾患による脂肪代謝不全)や特発性高コレステロール血症(ドーベルマン、ロットワイラーで家族性に生じることがある)が知られている。二次性高脂血症は食事性、糖尿病、甲状腺機能低下症、副腎皮質機能亢進症、肝疾患、肥満などがある。
③低脂肪食(脂肪を10%以下に抑える)、基礎疾患が存在する場合はその治療を実施。改善が認められない場合には高脂血症治療薬を使用する場合もある。
④急性膵炎の致命的発症を避けるため、血中トリグリセリド濃度を500mg/dl以下に保つ必要があるとの報告もある。
⑤本症例は大量の食用油を摂取したことによる高脂血症(高トリグリセライド血症)とそれに続発するぶどう膜炎、急性膵炎、急性膵炎による肝細胞障害および肝内、肝外胆管閉塞による黄疸と考えられた症例である。食用油を摂取した場合には、早急な催吐処置や量によっては胃洗浄の必要性があると考えられる。

[まとめ]
○本症例は食用油の大量誤食による一連の病態を呈したものと強く推察された。
○最も重篤な病態は高グリセライド血症に続発した重度の膵炎とそれに誘発された膵臓周囲の重度炎症であることが示唆された。
○本症例は26日間、自宅での24時間連続の静脈輸液を実施せざるを得なかった(毎日通院)。その間、腹部腫瘤(全体の経過からはこの腫瘤は炎症による中心に液体を貯留した肉芽組織であり、これが胆汁排出経路の排泄障害にも関連していると察せられたが・・・)が一体どのような病変なのか、あるいは十二指腸の腸管穿孔が存在するのか・・・等を考慮し、幾度か試験的開腹実施を考えたが結局実施しなかった。この時役に立った症例報告が名倉氏(後に記載)等のもので、症状や検査結果が酷似していたため、病変も想像できた。
○ステロイドの使用に関しても躊躇したが、結局は投与した。消炎という意味では奏効したと考えられた。
○治療費も嵩んだが、本症例の生命力と飼い主の犬への愛情に感服した。

膵臓疾患を併発した高脂血症の犬1例』(Info Vets 2010年1月号)名倉理恵、駒林賢一(ノア動物病院)、山中勇(釧路動物病院)、武井好三(ノア動物病院)
要約「糖尿病治療中のサモエド、14歳の避妊雌。ポテトチップス誤食後に肝酵素上昇、黄疸、CRP上昇、血液凝固異常、腹部頭側に塊状病変を認めた症例で、試験的開腹を実施してそれが膵臓由来の腫瘤病変であることを確認した報告である。病理組織学的検査にて好中球主体の炎症細胞浸潤がみられ、膵臓の腺房組織の破壊、および変性、凝固壊死組織が認められた。肝臓にも白色結節が散在し、これらは肝細胞の膨化、変性、脱落、炎症細胞浸潤が認められた。本症例は膵炎と慢性肝障害と胆汁排出障害と考えられた。治療は点滴、抗生剤、低分子へパリン投与に加えて、炎症反応を抑制する目的でプレドニゾロン投与が行われ、第16病日より徐々にビリルビン、肝酵素の低下、臨床症状の改善が見られた。」

文責:獣医師 藤﨑 由香

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