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今週の症例(2013年10月9日)No.19:猫は本当に縫い針(糸)が「お好き」・・・なので御用心!

[症例]:日本猫、避妊雌、年齢不詳(11歳くらい)。
[主訴]:外から帰ってきてから口をモゴモゴしていて、口周りに血が付いてたとのことで、受付終了間際に来院。
[診断]:触診時、頸部(下顎)の皮下に細長い異物が刺さっているのを確認。口腔内を確認したところ、舌の付け根に近い部分から細い金属が飛び出ていた。金属は完全に皮膚に埋もれ沈んでいた。(「事後考証」すると、処置が終わるまで金属が何であるか考えが及ばないというか、1秒でも早く麻酔をかけることことを考えた。しかるに麻酔薬を吸いながら麻酔リスクを飼い主に伝達した。もちろん血液検査は事後に行い、麻酔前のルーチンである心エコーもレントゲン撮影も行わなかった。)
[処置]:これ以上刺さる(刺入する)と頭蓋内に入ってしまう危険性があったため、すぐに静脈内麻酔をかけて不動化した。口腔内に突き出た金属の先端を鉗子で掴んで口腔外に引き抜くと、糸の付いた縫い針が摘出できた。

[ワンポイント講義]:
①本症例は、飼い主さんの趣味が裁縫で、家の中に縫い針が置いてあるとのことだった。糸が付いた縫い針で遊んでいて、何かの拍子に刺さってしまったと考えられた。
②猫は紐やビニールといった異物の誤食が多い。今回のように針が付いていなかったとしても紐のトラブルは少なくない。うまく流れて便と一緒に出ることもあるが、消化管内容物と絡んで腸閉塞を起こす可能性がある。また、ひも状異物は一方の端が胃や腸(の内容物)に引っかかった状態で、もう一方の先端が流れてしまい(移動して)、腸が手繰り寄せられるような形(アコ―ディオン状)になることがある。この状態では腸壁が虚血を起こして壊死したり、腸管穿孔にまで至る。最悪は広範囲の腸管切除を強いられ生命維持にかかわる重大事となる。
③これらの誤食は絶対的に(一にも二にも)飼い主さんの不注意に因る。危険物(特に猫では紐やビニールなど)を猫の手の届くところに置かない!! ねこじゃらしなどのおもちゃも遊んだ後は片付けておくことが重要である。誤食は完全に防げるので、日頃の生活(後始末)に要注意。いつも家の中を見渡し、危険なものはないか確認が必要である。
④なぜ猫が糸(縫い針)を好むかは、猫のざらざらの舌に糸が絡んで「何とも舌触りが良い」ことに依るようだ。
⑤今回の症例で先ず脳裏をかすめたのが14年前(1999年7月)の祭りの子供の「割り箸事故」。来院から処置終了まで5分足らず。針の先端が頭蓋内まで達していたら、達したらと思うとゾッとする症例であった。

文責:獣医師 藤﨑 由香

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