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今週の症例(2013年10月12日)No.20:ワクチン接種時の飼い主さんの笑顔が素晴らしい!!!

[症例①]:3日前に保護した子猫で生後約1カ月、体重260g。左肘の腫脹を主訴に来院。元気食欲があったので経過観察していたところ、翌日元気食欲低下で再度来院。肘の感染症を疑い(レントゲン検査では軟部組織の腫脹以外、肘関節の骨格系には異常なし)抗生剤(メトロニダゾール、センセファリン)の投与を開始した。肘の腫脹も軽減し、経過は良好であったが、第7病日に呼吸促迫と両後肢麻痺を主訴に緊急来院した。エコー検査で左右の心房拡大と心収縮率(力)の低下が見られた。レントゲン検査においても両心房の拡張(バレンタインハート)と心陰影の顕著な拡大を認めた。臨床症状と検査所見から原因不明の急性拡張型心筋症による血栓塞栓症を疑い、治療(ベナゼプリル、ジコキシン、ピモベンダン)を開始した。その後経過は良好で呼吸状態も安定し後肢の麻痺も完全に回復した、現在約2ヶ月が経過しているが心陰影と心収縮率も改善し、投薬も1種類ずつ漸減し、今は完全休薬して経過観察中である。状態が安定していることからワクチン接種も実施した。

[症例②]:2日前に保護した子猫で生後約1カ月、体重280g。嘔吐と震え、衰弱を主訴に来院。来院時の体温は35.9℃と低体温状態にあり、小刻みに震えて「てんかん様」の神経症状を呈していた。CPKも289U/Lと上昇し、Cre5.7 mg/dlと高値を示した。毒物摂食の可能性などさまざまな原因が考えられたが特定はできなかった。点滴などによる対症療法を実施したところ、翌日にはCre0.1mg/dlと正常値になり、自分で食事できるまでに改善した。その後経過観察としていたが、第4病日に再び痙攣発作が発現したため抗痙攣薬注射(フェノバルビタール)して落ち着く。摂食可能まで回復してからは抗痙攣薬内服(フェノバルビタール)を継続した。発作は第7病日に4回目の発作があったのを最後に、現在約50日経過するが起きていない。状態が安定していることから先日ワクチン接種を実施した。

[ワンポイント講義]:
①猫の心筋症は、現在では肥大型心筋症が一般的で、拡張型心筋症は稀である。猫の栄養学が確立される以前、拡張型心筋症は最も頻発する心疾患であった。タウリン欠乏が二次的な心筋症の原因と考えられている。症例①は保護される以前はどのような環境で生活していたか分からないため、タウリン欠乏性心筋症の可能性も考えられた。血液中のタウリン濃度を測定すると確定診断されるが、検査可能な施設が限られるため今回は実施できなかった。
②痙攣発作はさまざまな疾患で引き起こされるため、鑑別診断が必要になる。心血管系異常によって引き起こされる失神も発作と似ているため注意しなければならない。代謝性疾患は血液検査所見により否定されることから、頭蓋内の器質的異常、特発性てんかん、毒物、ウイルス感染症(猫白血病ウイルス、猫免疫不全ウイルス、猫伝染性腹膜炎ウイルス、トキソプラズマなど)が疑われたが確定診断はできなかった。
③どちらの症例も確定診断はできなかった症例だが、飼い主さんの献身的な看護でワクチン接種できるまでに回復した症例である。諦めたら負け(死がまっているのみ)である。

文責:獣医師 藤崎 由香

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