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今週の症例(2013年10月21日)No.21:犬の滑液嚢腫(肘腫、ハイグローマ)

[症例]:スパニッシュ・マスチフ、生後4ヶ月、21.4㎏。左肘の腫れを主訴に来院。
[診断]:超音波検査と大型犬であることから滑液嚢腫(肘腫、ハイグローマ)を疑い仮診断。
[治療]:第1病日は経過観察とし、消炎剤(トラネキサム酸)を処方。腫れが大きくなったということで第4病日に剪後丁寧に消毒して穿刺。滑液を約200ml抜去。穿刺後は感染を予防するため3日間抗生剤(セファレキシン)を投与した。「抜去後も再び貯留し、大きくなると穿刺する」をその後11回繰り返す(第7病日、17病日、19病日、27病日、46病日、76病日、84病日、90病日、95病日、99病日、108病日)と漸次、貯留量も減少して滑液嚢腫は縮小した。しかし、右肘にも同様の滑液嚢腫が発生し、滑液抜去を3回実施(第79病日、120病日、128病日)した。生後10カ月の現在、硬結は残るものの両肘ともに落ち着いており、再発は認めない。

[ワンポイント講義]:
①滑液嚢腫は肘腫あるいはハイグローマ(hygroma)ともよばれる。主に1歳未満の大型犬に好発し、まれに老齢犬で認められることもある。
②肘の打撲や摩擦などの衝撃に伴う非化膿性炎症反応である。貯留する液は一般に透明または琥珀色で細胞成分に乏しく、マクロファージや嚢胞被覆細胞が主体である。
③多くの場合、症状や痛みはなく、歩行にも影響しない。進行すると痛みが出たり、潰瘍化して炎症が肘関節の軟骨や骨に波及することもある。
④治療は生活環境の改善が重要である。居場所に柔らかいマットを敷く工夫をしたり、肘を保護するサポーターをつけることもある。内科療法では消炎剤(NSAIDs)を投与する方法や抗生剤を投与する方法がある。ステロイド投与する報告もある。外科的に穿刺や切除を実施することもあるが、意外と手術は大掛かりで患部が患部だけに術後の感染症のリスクも少なくない。今回の症例のように、完治まで時間を要するがメスを入れない事に越したことはあるまい。

文責:獣医師 藤﨑 由香

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