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今週の症例(2013年10月22日)No.22:誤嚥性肺炎が疑われた症例の治療法

[症例]:10歳ダックスフンド、雌、10.3kg。「てんかん」で内服治療中である。
[主訴]:1時間程前にゴミ箱をひっくり返していた。その後嘔吐して呼吸が苦しそうになりぐったりしている、「何か食べてしまったのでは…?」とのことで緊急来院。
[診断]:来院時、呼吸促迫で体温が41.5℃と高かった。異物の可能性、嘔吐後に状態が悪くなったとのことで誤嚥性の肺炎を考慮してレントゲン検査を実施し、左右中葉を中心に肺炎の所見(不透過性亢進)を認めた。血液検査では白血球数11900/μl、CRP(炎症タンパク)0.4mg/dlであり、この時点では異常は認められなかった。症状と胸部X線検査結果から誤嚥性肺炎(吸引性肺炎)を疑い、抗生剤(セフポドキシム、オフロキサシン)と胃酸分泌抑制剤(ガスター)投与とネブライザーによる抗生剤噴霧(ネブライジングボックス内での吸引)、皮下点滴を実施した。第3病日の血液検査では白血球数が26600/μl、CRPが>7.0mg/dlと高値を示した。5日間連続の1日1回のネブライジングを実施したところ、漸次症状の改善が見られた。同時に食欲も徐々に出てきた。第10病日には白血球数は26800/μlと依然高値だが、CRPは0.8mg/dlと低下。抗生剤を1種類に減して継続投与後、完治とした。

[ワンポイント講義]
①誤嚥性肺炎(吸入性肺炎)は吸入物質(経口摂取物や嘔吐物)が原因で起こる肺の炎症とそれに続発する肺機能不全と定義される。咽頭反射機能が不良な場合や食道拡張症、先天性の右動脈弓遺残などによっても起こることもある。胃酸を吸入すると呼吸器の上皮細胞と界面活性物質が著しく損傷され、誤嚥物質や食物、咽頭部細菌叢による細菌性肺炎を引き起こす。
本症例はてんかんの治療中であり、てんかん発作時に嘔吐しそれを誤嚥した可能性も否定できない。
③誤嚥が嘔吐物でなく胃液に限っていても重篤な肺炎を惹き起す。それは胃液の低いpHが肺への強い組織侵襲をもたらすことによる。胃酸吸引性肺炎とも称される所以である。
④症状は発咳、呼吸困難、頻呼吸、発熱、チアノーゼなどである。嘔吐や吐出を引き起こす何らかの原因に続発して誤嚥性肺炎が起こる場合にはそれらの疾患の症状が認められる。
⑤咽頭の解剖学的異常や麻痺、巨大食道症、意識障害などがあると誤嚥性肺炎のリスクは高くなる。また、麻酔や鎮静の処置が必要になる前に食事を抜く(絶食絶水する)のはこの誤嚥性肺炎を防ぐためである。
⑥診断は胸部レントゲン検査による。気管支肺胞パターンと呼ばれるレントゲン像が出現するまでには、吸引(誤嚥)後24時間を要すると言われる。本症例においても、誤嚥性肺炎を引き起こした直後と考えられる時間のレントゲン所見と比較すると、約40時間後のレントゲン像の方が重度の肺炎像を呈している。その他、必要に応じて原因解明の為の検査を実施する。
⑦治療は酸素吸入、輸液、絶対安静、抗生物質の投与などを行う。転帰は重症度と原因となる疾患に依存するが、重度の場合は致死的な状態になりうる。(人の死因でも肺炎が3位と増えている)

文責:獣医師 藤﨑 由香

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