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今週の症例(2013年11月2日)No.24:不明熱と胸腔内出血のW.コーギー

[症例]:約10カ月齢、体重6.15kg、避妊雌のW.コーギー。
[主訴]:1週間の不明熱と元気消失、食欲低下を主訴に来院。
[検査と診断]:体温は40.9℃。血液検査では血小板数が9.9万/μlに低下し、赤血球数は523万/μlで軽度の貧血を呈し、白血球は27,800/μl(塗抹検査で分葉核が主体)と上昇。胸部レントゲン撮影での肺炎等の所見は認められなかった。そこで免疫性疾患を疑い手根関節の関節腔穿刺を実施したところ、採取した関節液は黄褐色に混濁し、粘稠性もやや低下していた。関節液の塗抹検査は細胞に豊み、内容はマクロファージが主体であり、その他に好中球とリンパ球が散見された。また炎症蛋白(cCRP)は7.0mg/dl<の高値であったが、肝臓・腎臓などの生化学項目は正常であった。以上の検査成績から、何らかの自己免疫異常が絡んだ疾患が疑われたため、プレニドゾロンによる免疫抑制療法を初診日より開始した。がしかし、同日夜、「呼吸時に鼻が鳴る」「立つ時、後肢に力が入らずふらつく」とのことで救急で再来院。再来院時の舌粘膜は蒼白で、赤血球数も346万/dlと午前中よりも約180万/dl減少していた。血小板数は7.8万/dlであった。胸部エコー検査で胸腔内の液体貯留を認め、胸部レントゲン撮影でも左肺野での心輪郭の不明瞭所見が得られた。この病態の急変は胸腔内出血によるものと推察されたため、同居犬とのクロスマッチング試験で適合を確認後、150mlの輸血を実施した。
[治療と経過]:ステロイド療法によって第3病日には血小板数は14.1万/μlに増加した。赤血球も473万/μlまで増えたため、出血もおさまったものと判断した。cCRP値は6.8mg・dlであった。第7病日、血小板数は41.7万/μl、赤血球数は601万/μl、cCRPも0.7mg/dlにそれぞれ改善した。その後も経過良好であり、第21病日にはcCRPは0.3mg/dl以下となり、第28病日には血小板数が26.7万/μl、赤血球数は602万/μlの正常であった。その間、発熱は認めなかった。ステロイドは、肝機能値の上昇のため第21日病日から漸減し、第26日病日からは完全に中止しているが、現在まで元気食欲などの問題の再発はない。GPT値も低下している。

[ワンポイント講義]
①「不明熱」については、「症例の紹介」で詳しく記述しているのでそれを参照してもらいたい。結局のところ、「不明熱」は、われわれ末端の臨床現場での諸検査や設備では原因の追求に困難を伴う病態と言えるので、獣医学の進歩によって将来的には末端臨床でも解決可能ということであろう。http://tabaru.9syu.net/case/perm/174.htmhttp://tabaru.9syu.net/case/perm/173.htm
②(免疫介在性の疑いがある)関節炎と血小板減少症の存在により、全身性エリテマトーデス(後述)も疑われたが、抗核抗体(ANA)の検査は実施しておらず、確定診断には至らなかった。今後の課題であろう(「治れば良し」の末端臨床獣医師の性根を改めるべし)。
③繰り返すが、体内に何らかの異常が存在するから「発熱」するのであって、「丁寧で慎重」なる血液検査やレントゲン撮影、エコー検査を駆使して原因を追及する姿勢が重要である。関節穿刺がそのツールの一つとして活用に価し得ることが明白となった症例であった。
④胸腔内出血の原因については想像の域を出ないが、血小板の減少に加えてその機能低下も考えられた。
⑤貧血の治療に関しては、運よく同居犬からの供血ができたが、改めて日頃(健常時)からの輸血犬確保の重要性を思い知らされた。

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