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今週の症例(2013年11月20日)No.27:侮れぬ猫の「ヘモプラズマ症」

[症例①]:5歳の雑種猫、去勢雄。ワクチン接種時の健康診断で、赤血球数579万/μlと貧血が認められた。血液塗抹にてマイコプラズマを確認したためヘモプラズマ症と診断。ドキシサイクリン投与にて1週間後には赤血球数728万/μlと増加。嘔吐などの消化管症状を認められた為、ドキシサイクリン投与は1週間で中止した。約3カ月経過した現在、貧血は認めていない。
[症例②]:1歳のアビシニアン、去勢雄。1週間前から続く食欲低下、嘔吐で来院。赤血球数が589万/μlで貧血が認められた。血液塗抹にてマイコプラズマ、球状赤血球が確認された。ヘモプラズマ症とそれに関連する免疫介在性溶血性貧血と診断し、ドキシサイクリンの投与を開始した。ステロイド剤の投与は実施しなかった。第3病日には赤血球数は480万/μlと減少したが、全身状態が改善傾向にあった為、継続治療とした。第9病日には赤血球数514万/μl、第16病日には570万/μlと増加してきている。

[ワンポイント講義]:
本症は、以前はヘモバルトネラ症と呼ばれ、リケッチア性病原体(Haemobartonella felis)による疾患とされてきたが、近年の遺伝子解析によりマイコプラズマに分類されることが分かった。それに伴い「ヘモプラズマ症」と呼ばれるようになった。よってヘモプラズマ症には2系統の病原体の存在が明らかとなり、わが国の猫でもCandidatus Mycoplasma haemominutumの方が、Mycoplasma haemofelisよりも感染割合の高いことが示されている(帯広畜産大学・猪熊壽氏による)。両者の治療法に差異はない。赤血球表面に寄生することにより、宿主の免疫反応によってもたらされる赤血球の破壊と貧血が認められる。猫同士の咬傷、ダニやノミ、母子感染によって伝播されると考えられている。
症状を示さない不顕性感染から、著しい衰弱、死に至るまで症状は様ざまである。急性期には間欠的な発熱、沈鬱、食欲不振、粘膜蒼白、脾腫、黄疸などの症状がみられる。猫免疫不全ウイルス、猫白血病ウイルス感染、伝染性腹膜炎などを併発する場合には重篤な貧血が認められる場合がある。
診断は血液塗抹でマイコプラズマを確認する。通常、網状赤血球数の増加を伴う再生性貧血が認められる。血液塗抹上に必ず認められるとは限らないので、PCRを用いた遺伝子検査を実施する場合もある。クームス試験は陽性になることが多い。
治療はテトラサイクリン系の抗生剤投与を行う。重度の貧血が認められる場合には、免疫介在性溶血性貧血を続発していると考え(血液塗抹検査で球状赤血球を確認する)、プレドニゾロンの投与を併用する場合もある。適切な栄養管理も治療には重要である(人のマラリアと同様に、免疫や栄養状態の劣悪化した個体で顕性化あるいは重症化するため、強制給餌などによるカロリー補給が重要である)。予後は一般的には良好であるが、終生保菌動物(キャリアー)となるため、ストレスや他の疾病に伴って再発する可能性がある。

文責:獣医師 藤﨑 由香

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