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今週の症例(2013年12月14日)No.30:いわゆる「猫風邪」-流行の兆し、冬本番と発情シーズンを迎え要注意です-

[症例1]:雑種猫、年齢不詳、避妊雌。ワクチン接種は保護時のみ(約5年前)。13日前からの食欲減退、流涎を主訴に来院。舌中央部に直径1.0㎝の潰瘍を確認。カリシウイルス感染症と仮診断し、治療を開始。2回のインターフェロン注射とビタミン注射を実施し、抗生剤を処方した。翌日から流涎、食欲は改善した。
[症例2]:母猫と子猫(生後5カ月)4頭の計5頭。母猫のみワクチン接種済み。他に4頭、計9頭を飼育している。2日前から鼻汁とくしゃみ、食欲減退を主訴に子猫Aが来院。上部気道炎に結膜炎を併発していたことからヘルペスウイルス感染症と仮診断して、インターフェロン・抗生剤の点眼を実施し、抗生剤内服を処方した。他の子猫との隔離を指示した。しかし、第3病日に子猫Bが同様の鼻汁、くしゃみ、咳を主訴に来院。他の子猫、母猫にも軽い同様の症状が認められるとのことから、抗生剤内服とネブライジングを実施。第4病日子猫Aの症状は改善するが、子猫Cと子猫Dは重度の結膜炎を呈し、食欲は廃絶した。ネブライジングと抗生剤内服、強制給餌を実施する。第10日子猫Dに直径5mmの舌潰瘍を確認。症状の改善しない子猫CとDの2頭にインターフェロン注射を実施した。症状は現在回復傾向にある。

[ワンポイント講義]:
猫の上部気道感染症はウイルス、細菌、クラミジアなどが原因で起こるが、中でも猫ヘルペスウイルスⅠ型、猫カリシウイルスの関与が多い。特に多頭飼育環境下にある猫でのリスクが高い。
猫ヘルペスウイルスⅠ型感染症:感染経路は経口、経鼻、経結膜である。鼻汁や眼脂などの分泌物にウイルスが含まれる。環境中では長期間生存することはできない。しかし、感染猫は急性期に大量のウイルスを放出するだけでなく、回復後も三叉神経節などにウイルスが潜伏感染し、ストレスや免疫が低下した際に再賦活化してウイルスを放出する。症状は沈鬱、くしゃみ、発熱、食欲不振、流涎、結膜炎など。
猫カリシウイルス感染症:経口、経鼻、経結膜で感染する。長期間(30日以上)、ウイルスを排泄(出)する。環境中で長期間生存し、常温でも1カ月以上、低温環境下ではさらに長く生存する。猫ヘルペスと同様の症状のほか、流涎を伴う口腔内潰瘍形成が特徴である。カリシウイルスの一部は肺や関節滑膜でも増殖するため、肺炎、関節(周囲)腫脹を伴う跛行を引き起こすこともある。カリシウイルスは回復後も長期間ウイルスを排出し続ける。近年、強毒(全身性)猫カリシウイルス病が報告されている。成猫に対しても高い致死率を示し、発熱、皮下浮腫、皮膚の壊死・潰瘍などの症状が認められる。
治療は抗ウイルス薬、二次感染予防の為に抗生剤の全身投与および局所投与を行う。また、投薬だけではなく栄養管理が重要になる。幼猫や免疫不全状態の猫では予後が悪く死亡率も高いが、一般に10~20日で回復する。猫ヘルペスウイルス感染症では再発がしばしば見られる為、生涯にわたって管理が必要となる。猫カリシウイルス感染症も適切な治療が行われれば予後は良好である。しかし猫ヘルペスウイルス同様、回復後もウイルスが排出される。
猫ヘルペスウイルスⅠ型(猫伝染性鼻気管炎)、猫カリシウイルス、猫汎血球減少症ウイルスの3つがコアワクチンとして多くのワクチンに含まれている。感染防御ではなく、感染した時の病状軽減のワクチンである。特に猫との接触がある場合や多頭飼育ではワクチンが非常に重要になる。また、万一発症した場合には「隔離」が重要になる。臨床症状が消失してからもウイルスを排出するため注意を要する。消毒薬は塩素系消毒薬が有効である。

文責:獣医師 藤﨑 由香

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