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犬の僧帽弁閉鎖不全症の新たなガイドライン~だがだが、まだまだあるあるControversy(論議)~

 ピモベンダンの作用は、端的には心筋のCa2+感受性を増強させることで心筋の収縮力を高め、また筋小胞体へのCa2+の再取り込みを促進させることで心筋拡張機能を改善する。さらにホスホジエステラーゼ活性の抑制作用で血管を拡張させる。

 2017年6月、American College of Veterinary Internal Medicine(ACVIM)による犬の僧帽弁閉鎖不全症の診断・管理に関するガイドラインの変更が発表されました。新たなガイドラインでは、ステージB2(逆流が存在し、左心房、左心室の拡大があり、心不全症状がない)の段階で、今まで勧められていなかったピモベンダンの使用が推奨されています。これにより、無症候期の治療の有効性や方法(薬剤の服用)が大きく変わり、ACE阻害剤の使用法、必要性を再検討せざるを得ない状況です。ただし、ガイドラインの心不全症状とは主に肺水腫の既往を指し、咳や運動不耐性は含まれないため、発咳や運動不耐性の対処法として、一概にACE阻害剤が必要ないとは言い切れず、使用判断に苦慮するところです。いずれにしても投薬による臨床症状の消失や軽減を観察し、また各種検査指標の改善を評価しながら、それぞれの個体に合った治療薬の選択が重要となります。今後、この疾患に対する投薬が変更されることもありますので、御了承下さい。

注釈1:上の記述だけでは理解しずらいことが多いでしょうが、実のところ、犬の心臓病の研究者や専門家の間でも論争のあるところです。それを示すのが、図に示してある△印です。これは学者や専門医の間でもその使用に関して意見が分かれていることを表すものです。と云うことは、ある機序の心臓病薬を使う獣医師もあれば、そうは思わない獣医師もいるということです。このことが、われわれ末端の臨床家を、また飼い主を悩ますことでもありますが、実際の現場では効果があれば使用を続けるということになるでしょう。

注釈2:ACVIMの病期分類を簡潔にまとめれば、A期(僧房弁はじめ心臓に異常なし)、B1期(僧房弁の変性があり逆流が存在・左心房と左心室の心拡大がなし)、B2期(左心房と左心室の心拡大があるが臨床症状はなし)、C期(肺水腫などの臨床症状あり)、D期(難治性心不全状態=ACE阻害剤・ピモベンダン・ループ利尿剤のトリプルセラピーをやっているのに心不全を繰り返す・投薬に反応しない)・・・・・・となります。今回の報告とその根拠となった文献では、臨床症状が未だ見られないB2期の犬にピモベンダンを投与すると発症までの期間をかなり延長できるというものです。(今まではACE阻害剤にも似たような効果があると言われていましたが確固たるエビデンスが無かったというか・・・・・・これに関しても今後の論争であり、解明すべきことでしょう)。トリプルセラピーがすべてじゃありません。硝酸イソソルビドもあれば、β遮断薬もあれば、ニトログリセリンもあれば、直接作用型動脈拡張剤もあれば、肺高血圧治療薬、それに酸素もあります。難治性であれば藁をもつかむおもいで考えられる薬に頼るしかないのです

注釈3:獣医師の今までの常識では、肺水腫以外の発咳・運動不耐性などの症状が僧房弁閉鎖不全症に必発ではないということです。別の文献どころか、別の文献では肺水腫に関してはほぼ関係ないとあります。左房拡大は関係がありますが(必発ではない)、それ以外の気管虚脱やその他の気管の疾患、そして一番の関与は気管支炎や肺炎などの疾患が重大とあります。発咳を僧房弁閉鎖不全だけの所為にはできないということです。運動不耐性も然りであり、僧房弁閉鎖不全だけに目を奪われず、他の疾患にも目配りすることが重要になります。某心臓病専門医は、運動不耐性は僧房弁閉鎖不全症の臨床徴候であることを強く支持しています

注釈4:人間も軽度の高血圧が持病の人での高度の塩分制限はかえって寿命を縮めると言われています。僧房弁閉鎖不全症など心臓病の犬もその病期によっては高度の塩分制限は好ましくないと言われています。上記の分類で言えば、B期に当てはまりますが、少なくともB1期の塩分制限が不要なことは学者の一致をみるようです。B2期に関しては△でありますから見解の分れるところです。しかしこのB期には高齢犬用フード(塩分軽度制限食)に切り替えるのは必要(妥当)でしょう。早期からの高度塩分制限はRAA(レニン-アンジオテンシン-アルドステロン)系を活性化して、それが細動脈を収縮させるため、逆効果となる

 以上縷々述べてきましたが、僧房弁閉鎖不全症で治療をしている患者さんにおかれましては、疑問点など遠慮なく御相談下さい

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